やりがいを感じられない
若者が急増した理由

Great Place to WorkR Institute Japan 代表取締役社長の荒川陽子氏荒川陽子(あらかわ・ようこ)
Great Place To WorkR Institute Japan 代表。2003年HRR株式会社(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職として中小~大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。2020年から現職。コロナ禍をきっかけに働き方と生活のあり方を見直し、小田原に移住。自然豊かな環境での子育てを楽しみつつ、日本社会に働きがいのある会社を一社でも増やすための活動をしている。

 Great Place To WorkR Institute Japan 代表の荒川陽子氏は、職場のホワイトさが若手の転職につながる事象について「さまざまな“時代の変化”が関係している」と分析する。

「そのうちのひとつに、職場運営に関する法律が整備された点が挙げられます。まず、2015年に施行された『若年雇用促進法』によって、各企業は平均残業時間や、早期離職率などの情報の開示が義務付けられました。そして2019年以降は、大企業から順に『働き方改革関連法案』や『パワハラ防止法』が適用され、職場の在り方が大きく変わっています」

 あらゆる情報をオープンにした結果、残業が多い企業や離職率が高い企業には人材が集まらなくなり、各企業が職場環境の改善に努めた。そこに法改正もあいまって、企業のホワイト化が一気に加速したという。

「二つ目は“キャリア教育”に力を入れる大学が増えた点。昔から就活の相談ができる機能はありましたが、今はキャリア関連の授業科目を取り入れ、インターンシップを単位に組み込む学校もあります。学校側が人生のキャリア形成を指導するため、10年前に比べて成長志向が高い学生が多い印象です。また、転職に対する世間のイメージもポジティブなものになっているので、昔ほど職場を変えるハードルは高くない状況も影響しています」

 急激に進んだ職場のホワイト化と、大学のキャリア教育の強化。これらの要素が絡み合い、仕事にやりがいを感じられない若手が増えたのでは、と荒川氏は指摘する。

「当社は、さまざまな企業の“働きがい”に関する従業員意識調査を行う機関です。ここで言う働きがいがある会社とは、職場の衛生要因(働きやすさ)と、動機付け要因(仕事のやりがい)の両方を満たした企業を指します。このどちらかが抜けていると、社員の離職につながるのです。ただ、社員が『職場がゆるい』『ホワイトすぎる』などと感じている場合は、企業が働く人の衛生要因を満たしているとも言えます」

 そして、キャリア志向が高い若手が感じる“ホワイトさ”は、企業努力の結果でもある、と荒川氏。

「かつて多くの日本企業は、社員に長時間労働を強いて、有給も取れない、いわゆる“働きにくい職場”でした。その一方で、高度経済成長期やバブル期は、給与がこの先も上がっていくものであると皆が感じることができ、日本企業が世界から高い評価を受けていたので、その分“やりがい”を感じられていたんです。しかし、バブルがはじけて、やりがいも誇りも失い、職場環境はブラックなまま、という企業が多い時代が長く続きました。そこから現在までの間に職場の環境を大きく改善したのは素晴らしい変化です」

 ただし、働きやすさは職場への不満は軽減するものの、仕事への満足度を上げる要因ではない、と荒川氏。そこで次のステップとして必要なのは、社員の“やりがい”を向上させる取り組みとのこと。

「先述の通り、高度経済成長期は海外から受ける評価もやりがいのひとつになっていましたが、今の日本では同様の手法は取れないでしょう。これまで以上に、企業側が社員一人ひとりにやりがいを感じさせる工夫が必要になります」