「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】ケトン体誘導の大きなカギとなる、身体の中のバランスとは?Photo: Adobe Stock

ケトン体誘導のカギとなるのは、
筋肉量と脂肪量のバランス

 すでにご説明したように、2022年に、私たちは「ケトンフォーミュラ」を使ったケトン体の日内変動を検討した論文を発表しました。

 論文中では、ケトンフォーミュラを飲んだ人の平均値を示しているのですが、もちろん個別の人のデータも存在しています。論文中では未公表ですが、その際に、最もケトン体の誘導効果が高かったのは、昔、自衛隊に所属していたとても体格のいい人でした。

 つまり、筋肉量が多くて筋力が高いことが、肝臓によるケトン体の産生にかかわっているとわかったのです。

 ケトン体は肝臓で生み出され、その後、筋肉内でエネルギーに生まれ変わります。これは、肝臓と筋肉の間での相互作用がうまく働いていることを意味します。そういう人は、脂肪の燃焼度が高く、また体の回復度も通常の人より高くなると推測できます。

 従来、医学の世界ではコリサイクルという筋肉と肝臓の相互作用が知られています。これは、激しい運動の際に、筋肉で乳酸がつくられ、肝臓でその乳酸がグルコースに変換され、再び筋肉でグルコースが使用される仕組みです。

 同様に、ケトン体についても、肝臓と筋肉の間で相互作用が存在すると推測できるのです。

ケトン体の生成が低下していくことは、
がんの発生に影響する可能性も

 がん患者さんの場合だと、ケトン食を始めると脂肪は減っていきます。筋肉量に関しては、導入1週間でわずかに減少しますが、その後は、維持されていきます。では、脂肪はどんどん減っていくのがいいのでしょうか?

 必ずしもそうではありません。なぜなら、体内の脂肪がなくなったら、脂肪細胞から脂肪酸が遊離しないので、当然、ケトン体は生成されません。

 そうすると、ケトン体によるサーカディアンリズムを整え、炎症を抑える効果が消失するので、当然、健康状態が徐々に悪化していきます。炎症は発がんのきっかけになることがわかっています。ケトン体の生理的な生成が低下していくことは、がんの発生に影響する可能性も当然考えられます

 ケトン体が誘導されるために必要な脂肪の量が適正か、それとも体に蓄積されすぎているかは、見た目で太っているかどうかではありません。

「体の中の炎症がどれくらい抑えられているか」という観点が大事だと考えています。すでに説明したCRP(C反応性たんぱく質)が正常値、できれば感度以下まで下がっていることが望ましいのです。

 まだまだ未知の部分も多いケトン体ですが、私たちは糖質や脂肪を目の敵にする前に、生理的なケトン体の分泌を誘導し、ケトン体の働きが維持されるように適正な筋肉量と脂肪量を維持していく必要があると考えています。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。