ウクライナ紛争が始まる前から
ロシアは不利な状況にあった
この連載で繰り返し主張してきたが、東西冷戦終結後、約30年間にわたってNATOの勢力は東方に拡大してきた。その反面、ロシアの勢力圏は東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退した(第297回)。
大きな視点で見れば、ウクライナ紛争が開戦する前の段階で、ロシアは国際的に不利な状況にあったといえる。
ウクライナ紛争をボクシングに例えるならば、リング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれたロシアという名のボクサーが、かろうじて繰り出したジャブのようなものだ。
さらに、ウクライナ紛争開戦後、それまで中立を保ってきたスウェーデン、フィンランドがNATOへ加盟申請し、すぐに承認された(第306回・p2)。ウクライナ紛争中に、NATOはさらに勢力を伸ばしたといえる。
万が一、これからロシアが攻勢を強めてウクライナ全土を占領したとしても、「NATOの東方拡大」「ロシアの勢力縮小」という大きな構図は変わらない。世界的に見れば、ロシアの後退は続いており、すでに敗北していると言っても過言ではないのだ。
米英にとって、さらに有利なことがある。ロシアはウクライナ紛争が長引けば長引くほど、密接な関係にあるとされる中国や北朝鮮に関与する余力を失うことになる。
東アジアでは現在、中国による台湾への軍事侵攻や北朝鮮の核実験を巡り、予断を許さない状況が続いている。筆者はかつて、もし今後の世界で「新冷戦」があるならば、その主戦場が北東アジアになりそうだと論じたこともある(第10回)。
それほど緊迫した状況下で、ロシアが中国・北朝鮮との関係性をさらに強めると、西側諸国との「分断」がさらに進むことが懸念される。
だが、ロシアが政治的・経済的・軍事的なリソースをウクライナ紛争に割いている限り、その危険性は低下する。だからこそ、ウクライナ紛争が長期化することは米英にとって大きなメリットがある。
あくまでこの紛争に限れば、すでにロシア優位は揺るがない状況だ。にもかかわらず、米英はウクライナへの武器供与を続けて“延命”を図っている。その背景には、こうした思惑があるのではないか。
ウクライナ紛争の行く末を見届ける上では、米英による支援の「さじ加減」も大いに注視すべきだといえよう。