半導体への関心が高まるなか、開発・製造の第一人者である菊地正典氏が技術者ならではの視点でまとめた『半導体産業のすべて』が発売された。同書は、複雑な産業構造と関連企業を半導体の製造工程にそって網羅的に解説した決定版とも言えるものだ。今回は近年の急成長で注目を集めた、アメリカの半導体企業・エヌビディアのGPUが果たす役割を解説してもらう。

エヌビディアPhoto: Adobe Stock

GPUの仕事は行列演算

 デジタルディスプレイ(液晶テレビや有機ELなど)の画像は、ピクセル(画素)と呼ばれる色情報(色調や諧調)を持った最小単位の集まりで構成されています。画像を構成するピクセルは、通常、縦横の格子状に配列されています。画素数とは「縦ピクセル×横ピクセル」のことを指します。このため、120万画素と言えば縦1280ピクセル×横960ピクセルが格子状に並んでいることになります。最近のスマートフォンでいうと、フルHD(1920×1080)のディスプレイなら200万画素の解像度をもっている、ということになります。

 このような配列によって画像を構成するためには、各ピクセルの色情報を指定し、また動画を表示するには各ピクセルの状態を時間と共に変化させなければなりません。

 静止画や動画を表示するためには、各画素の状態とその変化を指定しなければなりませんが、画素の2次元配列を一つのまとまった対象、すなわち行列(マトリックス matrix)として扱い、それにさまざまな処理を行なうことで、必要な静止画や動画の表示が可能になります。そのためには、線形代数と呼ばれる数学の分野を利用して各種の行列演算が行なわれます。

 行列の足し算は画面の重ね合わせ、引き算は画面の逆重畳という作業に相当します。特殊な形の行列を掛け合わせることで画像の拡大縮小、反転、回転、せん断などの処理ができますので、特に動画処理などに行列の掛け算が使われます。

 ところが、最も単純な行列の掛け算でも複雑です。1280×960行列の掛け算ともなると、膨大な積和演算(掛け算した結果を加え合わせる計算)が必要になります。動画処理ではこの積和演算を実行するため、汎用のCPUを使っていては効率が悪すぎるため、積和演算に特化したGPU(グラフィックCPU)が必要になり、これに着目してGPUを開発したアメリカのエヌビディア社(NVIDIA)が大きな躍進を果たしています。

(本記事は、『半導体産業のすべて』から一部を転載しています)