日常会話やメール、文書、プレゼン……自分の伝えたいことがうまく伝わらない、と思うことはないだろうか。そんな人にぜひ読んでほしいのが、2023年2月15日発売になった『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』(坂本和加著)だ。著者の坂本氏は「カラダにピース。」「行くぜ、東北。」「WAON」など数々の名コピー、ネーミングを生み出している。本書では、坂本氏が20年以上のキャリアで身につけた、「伝える」ための思考法、技術を余すところなく紹介。今回は本書の発売を記念して特別に一部内容を再編集、抜粋して紹介する。
自分にキャッチコピーをつける
これまで、子どもから大人まで言葉をつくりたい人向けに数多くのワークショップを行ってきました。
千代田区番町小学校に出向いて行うコピーの出前授業(東京コピーライターズクラブ主催)も、かれこれ10年以上実施しています。
番町小学校では、学校の周年コピー、学芸会のコピーなど、いろいろなレクチャーをしてきました。ここ数年人気の課題は「自分にキャッチコピーをつけよう」です。
授業は以下のカリキュラムで進みます。
[1] 自分のいいところを探そう
[2] 写真に言葉をつけてみよう
[3] どこで誰に使って、どう思われたいかを逆算しよう
[4] 伝えることは「ひとつ」にしよう
[5] たくさん書いてみよう
[6] どんどん見せて、さらに磨いてみよう
発表に対して優劣はつけません。全員が100点満点、「みんなちがって、みんないい」です。
この自分を伝えるひとことは、子どもだけでなく、大人も何かと使えます。
私も自分のキャッチコピーを20年以上前につくりましたが、いまだに使っています。
名前を覚えてもらうのは、実は大変なこと
たとえば、プロレスラーの棚橋弘至さんは必ず、「新日本プロレス100年に一人の逸材、棚橋弘至です」と自己紹介しています。
自分でつくったキャッチコピーを自分自身で言う、というスタイルを「あえて」とっているとおっしゃっていたのを何かで聞いたことがあります。
名前だけではなかなか印象に残すのは難しい。そのための「ひとこと」です。あなたなら、どんな「ひとこと」を自分の名前に添えますか?
小学生向けの授業では、「自分は何が好きなのか」「どうして好きなのか」「その何を伝えたいのか」「どう伝えたいのか」などなど、さまざまな角度から「自分」を見つめていく作業をします。
ここでは、ほんとうに伝えたいことを「ひとつ」にしていきます。すると、とてもその人らしい「ひとこと」が出てきます。
そこには比較対象もないし、好きなことを通して見つめた自分だから、よいも悪いもありません。
仕上がった言葉はオーダーメイドの自分を伝えるひとことになります。
世界でたったひとりの自分だという「自尊心の見える化」。自己肯定感を上げてくれる言葉です。
「思い出される人」を目指そう
フリーランスで仕事をしていると、「私のことを思い出してもらってありがたいなあ」としみじみ感じます。
他にもたくさんの同業者がいるので、「あの人はどうか?」というときに、まず自分の名前が挙がらないことには何も始まらない。
相手が思い出してくれるのは、私のことをどこかで知って、覚えていてくれるからです。
社会人であっても学生であっても、「思い出される人」を目指す。
まずは、社内や学校で。そのあとは同業者間で、他校の学生間で。思い出される人は、思い出してもらえる印象的な言葉をたくさん持っているようです。
なんかおもしろいこと言っていたな、あの人。えーと名前は……というふうに。
最終的に覚えてもらいたいのは、自分自身の名前です。
私は「仕事でつくったひとこと」を通して名前を知っていただくことが多くなりましたが、みなさんも「やっている活動や仕事」を通して、「名前」が伝わっていくほうが格段に速い。
今やっている活動や仕事がプロフェッショナルになるための途上にあるなら、一緒に名前も伝えていきましょう。
(*本稿は『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』より一部抜粋、再編集したものです)
合同会社コトリ社代表
文案家(コピーライター)/クリエイティブディレクター
大学を卒業後、就職氷河期に貿易商社へ入社。幼少期から「書くことを仕事にしたい」という漠然とした思いがあり、1998年にコピーライターに転職。数社の広告制作会社を経て、2003年に一倉広告制作所に就職。2016年に独立し、現在は合同会社コトリ社代表。
主な仕事に、「カラダにピース。」「行くぜ、東北。」「WAON」「イット!」「健康にアイデアを」「こくご、さんすう、りか、せかい。」などがある。受賞歴に毎日広告デザイン賞最高賞ほか多数。著書に『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』(ダイヤモンド社)、『あしたは80パーセント晴れでしょう』(リトルモア)ほか。東京コピーライターズクラブ会員。日本ネーミング協会会員。