他方、韓国には日本側の対応に不満が残り、尹錫悦大統領の対応への批判が高まる可能性は排除できない。

 韓国で日本専門家を自認する人々は一様に、尹錫悦大統領の解決案は問題解決の終わりではなく始まりだと述べている。日本専門家の人々が最も恐れているのは、韓国内で解決案に反対する世論が増す可能性である。

 過去に由来する問題は解決に時間がかかる。今回の徴用工問題解決案で、韓国側は日韓請求権協定から逸脱した状態を修正し、日韓関係を未来志向のものに転換させる契機を作った。しかし、韓国国内の不満は残ったままである。そのことにより、歴史は「終わった問題」ではなく、「未来志向の関係」は過去をベースに成り立つものであることを改めて考えさせられた。

元徴用工と遺族から
強い反発の声も

 岸田文雄首相は記者会見の場で、「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいることを確認した」と述べ、過去の政府の認識を再確認した。しかし、1998年の小渕恵三首相と金大中大統領の間で署名された日韓パートナーシップ宣言に盛り込まれた「多大な損害と苦痛を与えたという歴史的事実」「痛切な反省と心からのおわび」という言葉を述べることはなかった。

 韓国・峨山(アサン)政策研究院の崔恩美(チェ・ウンミ)研究院は、岸田首相の発言が期待に及ばなかった理由として、韓国が一方的に譲歩しているように見え 韓国側から日本の努力が見えないことを上げた。

 尹錫悦大統領は先制的に日韓関係改善のイニシアチブを取ったので、次は日本側が前向きな姿勢を見せる番だという意見が韓国内の大勢である。とはいえ、1回の首脳会談で埋められるものではない。岸田首相が今後どれだけ呼応するかにかかっている。

 今回の首脳会談における尹錫悦大統領の対応には、元徴用工と遺族の中から強く反発する声が上がっている。「真の謝罪と正当な賠償なしに免罪符を与えることはできない」「歴代内閣の歴史認識というのは、基本的に強制動員も強制労働も認めないということなのに」という主張である。元徴用工の梁錦徳(ヤン・グムドク)氏と1人の遺族は16日、三菱重工の韓国国内資産を取り立てたいとして訴訟を新たに提起した。