日本が対応を放置すれば
韓国が「ちゃぶ台返し」の恐れ

 今回の岸田首相の発言に対して、尹錫悦大統領は国内を納得させる宿題を負った。尹錫悦政権は元徴用工とその遺族に対する説得を重点的に行う考えのようである。

 徴用工問題で、尹錫悦大統領の受けた被害は大きい。支持率は低下した。解決案発表の時点で、韓国ギャラップでは支持率が2%下落、リアルメーターでも4%下落した。この下落率は予想より小さいが、首脳会談の結果によりさらに下落する可能性もある。共に民主党の中には「弾劾に値する」との声も出ている。

 ただ、元徴用工遺族の対応が割れていることも現実である。元徴用工遺族15人のうちの半数ほどからは「論争にけりをつけよう」「もう終わらさないと。何度もこういうことを持ち出して終わりなくやるんですか。私も疲れました」などの意見が出ている。

 遺族の多くは解決案に賛成だが、世論の反対が多いとその意思を明らかにできないとい見方もある。それでも、元徴用工遺族にとって、受け取るための大義名分が必要であり、それに対する日本側の配慮も必要であろう。

 この問題に日本はどう対応すべきか。

 今回の首脳会談で、日本に対する、韓国側の期待値は下げられた。しかし、このまま放置すれば、改めて日本への反発が強まり、より大きな要求が出てくる可能性がある。それは韓国の政権交代後の「ちゃぶ台返し」を招く可能性すらある。それを防ぐために、これまでの方針の大枠を変えずに、日本として大人の対応を示すことも考えるべきだろう。

 一つは、日韓パートナーシップ宣言の内容を読み上げることである。韓国の一般国民はパートナー宣言に示された日本政府の謝罪の内容を知らない。そのため、韓国外交当局は事前に日本側がパートナーシップ宣言の内容を繰り返してほしいと要請したようである。その内容を岸田首相が読み上げるだけで、韓国側の受け止めは違ってこよう。

 これを読み上げても新たな謝罪とはならないだろう。それによって多くの元徴用工遺族が韓国政府傘下の財団からおカネを受け取る雰囲気ができ、問題が解決すれば、「ちゃぶ台返し」を防止できるだろう。多くの遺族はさらに尹錫悦政権後に自分たちに好意的な政権ができる保証はなく、また、尹錫悦政権の残り任期4年間は待ちたくないはずである。

 それでも「確信的」な元徴用工についてはどうにもならないかもしれない。

 また、経団連と韓国・全経連(全国経済人連合会)が立ち上げた「未来パートナーシップ基金」に、日本製鉄と三菱重工が個別に基金に参加することも検討すべきである。

 この基金は元徴用工におカネを支払う支援財団ではなく、日韓関係を健全な関係に戻し、未来志向的な日韓関係の構築に向けた道を確固たるものにするために共同事業を実施する基金である。これは、日韓関係をウィン・ウィンの関係に発展させる。同基金には経団連、全経連がそれぞれ約1億円を拠出しており、会員会社の参加を促している。同基金に両社が参加することは、財界活動として説明がつくだろう。日本企業としても昔のイメージが払しょくでき、将来の事業に資するならば安い投資であろう。