具体的な合意の
着実な実行が必要

 首脳会談の力点は、過去の問題の処理ではなく未来に向けた協力である。それを着実に実行し、ウィン・ウィンの日韓関係を構築していくことが何よりも肝要である。それがちゃぶ台返しを防ぐ基本である。

 今回の尹錫悦大統領の訪日で、首脳同士の信頼関係が構築された。日韓の両国民は相手国に対し複雑な国民感情を抱いており、それを鎮静化できるのは首脳のイニシアチブをおいてほかにない。日韓首脳によるシャトル外交が復活したので、岸田首相の訪韓を早めに行い、これを定着させることである。今後両政府の各分野での協議が活発化するが、その際、首脳の緊密な協力が関係を促進させる。

 今回の首脳会談で、政府間において、多岐にわたる分野で意思疎通を活性化していくことで一致した。具体的には、長い期間中断していた日韓安全保障対話、日韓次官戦略対話の早期再開である。

 日本側には、2018年の海上自衛隊機へのレーダー照射問題が未解決だとの不満があるが、この問題をめぐる相互不信問題については防衛相協議の早期開催が期待される。

 他方韓国側には、福島第一原発処理水の放出問題や佐渡の金山の世界遺産登録問題の不満がある。福島第一原発の処理水の問題については科学的な知見に基づく分析を基礎とした協議、佐渡の鉱山問題については外務省や文化庁で協議を行うことが重要である。

 ただ、これらの解決は国民感情と結び付く問題であるだけに、首脳同士の信頼関係が重要であり、首脳のシャトル外交と一体となって解決していく以外ないだろう。

 新たに経済安保に関する協議も設けられた。北朝鮮の核ミサイルによる挑発がエスカレートし、米中の対立でサプライチェーンの協力が重要性を増す中、日韓のこうした分野の協力強化は不可欠である。

 輸出管理の分野において、日本が3項目の輸出規制を緩和し、ホワイト国に再指定することを目指した協議を進めることになった。この問題を取り除くことは、経済安保分野での協力を推進する上で役立つだろう。

 未来の世代が交流し、理解を深めることができるよう、両国の経済界が日韓の未来パートナーシップ基金を設立することで一致した。尹錫悦大統領は日韓の未来世代の協力を重視しているので、これは未来に向けた日韓の象徴的な協力となろう。

 日韓首脳会談の朝、北朝鮮は日韓両国に対する威嚇としてICBM級弾道ミサイルを発射した。こうしたミサイルの発射を含め、核ミサイル計画をさらに進める北朝鮮への対応について、日米同盟、韓米同盟による抑止力・対処力を一層強化し、日韓、そして日韓米3カ国でも安保協力を力強く推進していくことの重要性を確認した。

 米国は日韓とともに、中国と北朝鮮への対応で足並みをそろえた安全保障体制の再構築を目指している。米国は核を含む戦力で同盟国を守る「拡大抑止」の強化を話し合う新しい枠組みを日米韓で設けることを検討している。3カ国の軍事演習や情報共有の拡大も選択肢になる。

 尹錫悦大統領は日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を完全に正常化すると宣言し、国防部は外交部に手続きを進めるよう公文書を発出した。