韓国が中国との関係を重視しすぎると、韓国製のエレクトロニクス製品や自動車製品も欧米諸国からの規制の対象になりかねない。急激に中国依存から脱却することは無理にしても、徐々に中国依存度を下げる必要が韓国にはある。

 また、別の角度から見ると、韓国の半導体産業はTSMCに代表される台湾の半導体産業と最先端半導体の開発競争を行っている最中でもある。日本が輸出管理を厳格化した半導体材料などの一部は韓国国内でも国産化を進めていると言われているが、品質などの問題から、TSMCとの最先端プロセスの半導体開発競争に対応するためには、日本の優れた部材に頼らざるを得ない状況でもある。

 これらの地政学的な問題や、半導体産業の競争力の関係から、韓国としては日本との関係を改善する必要が急務となっている。

崩れた日韓関係の改善は
日本にとってもメリット大

 一方で日本にとっても、韓国を優良顧客として囲い込んでおきたいという思惑もあるはずだ。米国が主導する中国への半導体関連部材や設備の輸出規制が強化されると、日本の半導体関連産業の約2割が中国向けであることを考えれば、日本企業の収益にとっても中国規制は大きな痛手になる。

 そうしたときに、中国以外の部材や設備の需要を満たす市場を探す必要がある。ひとつはラピダスなど国内の半導体産業の育成であるが、今日でも40ナノプロセスしか生産できない日本の半導体産業が、現在の最先端の3ナノ、5ナノすら飛び越えていきなり2ナノを目指すと言われても、不確実性が高く、確実な需要とは言いがたい。そうなるとチップ4内の半導体産業、すなわち台湾、韓国の半導体企業にしっかりと食い込んで日本の部材や設備を売っていく必要がある。これが日本側が韓国との関係改善を急ぐ理由であろう。

 長年の韓国左派政権で崩れた日韓関係を現政権によって改善できるのか、韓国尹政権は低支持率の中で、日本との関係改善と韓国国内世論の納得という難しい舵取りを行わなければならない。韓国は失業率は低下してきたものの、昨今の輸出減少の影響が今後の先行きにとって不安要因となる。

 日韓関係の改善が両国の経済にとってプラスになるような方向性を示せれば、韓国国内の関係改善への理解を得られるかもしれない。いずれにしても、日韓の諍いが第三者に漁夫の利を与えるような事態は避けたいものである。

(早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 長内 厚)