「人種・民族に関する問題は根深い…」。コロナ禍で起こった人種差別反対デモを見てそう感じた人が多かっただろう。差別や戦争、政治、経済など、実は世界で起こっている問題の“根っこ”には民族問題があることが多い。芸術や文化にも“民族”を扱ったものは非常に多く、もはやビジネスパーソンの必須教養と言ってもいいだろう。本連載では、世界96ヵ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養「世界の民族」超入門』(ダイヤモンド社)の内容から、多様性・SDGs時代の世界の常識をお伝えしていく。

「世界の民族」超入門Photo: Adobe Stock

政治の腐敗はウガンダだけの問題ではない

 第二次世界大戦後、奴隷貿易から続く植民地支配の軛を逃れ、アフリカには多くの独立国が生まれました。

 中東、アジア、多くの独立運動は民族運動でもありますが、アフリカの場合はその「国」は、旧植民地の領域を基本としています。

 その国境線はあくまで支配者のパワーゲームの結果で、そこに暮らす多数の異なる民族の意向は反映されていません。

 そのため、「民族で新しい国を築いていこう」という時、一致団結することが難しいきらいがあります。

 アフリカの国々の中枢にいる人はかつての権力者が少なくない。さすがに仲間を奴隷として売っていた支配者層は時間が経ちすぎていて姿を消していますが、植民地からの独立戦争で功績を挙げた人の関係者、後継者もいます。

 当初は軍事政権ですから「力で意見を押し通す」タイプ。軍人としてのリーダーが、必ずしも政治のリーダーとして適任とはいえないことは、幾多の歴史が証明しています。

 そして権力者の新陳代謝が行われなければ、流れをなくした水が淀むようにモラルは失われていきます。たとえばウガンダのヨウェリ・ムセベニ大統領は、37年間という長期にわたって国のトップであり続け、2021年の選挙で再選を果たしました。

 ウガンダには「三選禁止」という、同じ人は3回大統領になれない規定があったにもかかわらず、「いやー俺、77歳だけど元気だし、まだまだ現役でやりたいんだよね!」とでもいうように、ムセベニ大統領がルールを変更してしまったのです。

 私はこれについてウガンダ人と議論しましたが、不正選挙もいいところだという意見でした。

「ウガンダでは大問題ですよ。大統領が選挙委員会を支配しているから、ウソもハッタリもまかり通るし、ムセベニのやりたい放題です。野党だけじゃない。ウガンダ人は、みんな怒っています」

 アフリカに関する多くの報道によれば、ウガンダに限らずアフリカのいくつかの国が似た状況にあるようです。

 同じ人が長期にわたって政権を握り続けたり、民主制や共和制であるにもかかわらず親子で大統領の座についたり……。

 北朝鮮とさほど変わらない国もあります。そんな国の憲法は「あってなきが如し」で、権力者の都合で無視されたり変えられたりするため、同じ人が何回も何回も当選するのです。

 どんな民族であろうとどんなイデオロギーだろうと、「ここの国は自分のものだ」という感覚の人がパワーを握り続ければ、独裁者になり、政治は腐敗します。

 賄賂や富の独占は当たり前。奴隷貿易や植民地支配の辛い体験から、もともと支配者層に強い不信感があるアフリカの人々は、現在の腐った政治家を見て、より不信感をつのらせ、絶望しています。

「リーダー不在」。アフリカの有識者と話す時にアフリカ停滞の真因として挙がる理由です。

 奴隷貿易、植民地支配、民族の紛争、天然資源を巡る争い、インフラ不足、教育制度の不備……。

 過去の負の歴史を克服できるリーダーがいないことが引き起こす問題は今もアフリカを苦しめています。