「人種・民族に関する問題は根深い…」。コロナ禍で起こった人種差別反対デモを見てそう感じた人が多かっただろう。差別や戦争、政治、経済など、実は世界で起こっている問題の“根っこ”には民族問題があることが多い。芸術や文化にも“民族”を扱ったものは非常に多く、もはやビジネスパーソンの必須教養と言ってもいいだろう。本連載では、世界96ヵ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養「世界の民族」超入門』(ダイヤモンド社)の内容から、多様性・SDGs時代の世界の常識をお伝えしていく。
スワヒリ語でつながるケニアとタンザニアは「アフリカの成長株」
アフリカの多くの国は多民族ゆえに言葉もそれぞれで、さらに文字を持たない言語も多かったために、公用語は旧植民地の言葉であることがほとんどです。
英語やフランス語、ポルトガル語など旧宗主国の言葉ができないと、就職どころか進学に影響します。
現地語で授業が行われるのは高校までで、大学教育は原則的にヨーロッパ系の言語。
観光客相手の英語やフランス語には不自由しなくても、修士論文や博士論文を書けるレベルでなければ、学歴が必要とされる仕事には就けない……。
これは言語差別や教育の機会の不平等につながることで、アフリカやインドで問題となっています。
日本語だけで大学教育が当たり前のように受けられる日本人には想像しにくいことなので、押さえておきましょう。
そんなアフリカにあって、タンザニアはアフリカで数少ない、ヨーロッパ系ではない言語であるスワヒリ語が国全体の国語となっている国です。
スクマ族、ニャキューサ族、ザラモ族など約130の民族がいます。
7世紀にイスラム教が入ってきて、アラブ人やペルシャ人との交流の歴史も持っています。
タンザニアについて私が実際に訪問して感じたのは、タンザニアはイスラム教徒とキリスト教徒が融和的という珍しい国であること。
イスラム教徒とキリスト教徒が結婚することもさほど珍しくないようです。
タンザニアの隣国ケニアには、現地の民族語しか話さない人もいますが、ほぼスワヒリ語が通じるので、両国は密な交流があります。
たとえば、タンザニアの最大都市はダルエスサラームですが、「病気になって大きな手術が必要だ」となると、ケニアのナイロビの病院に入院したりします。
違う国ではあるけれど、東アフリカの大都市といえばやはりナイロビ。
同じスワヒリ語で距離も近いと、安心して治療を受けられるのでしょう。
アフリカは他国へいく際にビザの取得がややこしいといわれますが、周辺国はお金さえあれば、気軽に往来できます。
タンザニアとケニアはスワヒリ語と英語が使われていて、多くの国から多様な人材が集まっています。
ダイバーシティも進んでおり、うまく連携しながら成長を遂げていく可能性があると思います。