「人種・民族に関する問題は根深い…」。コロナ禍で起こった人種差別反対デモを見てそう感じた人が多かっただろう。差別や戦争、政治、経済など、実は世界で起こっている問題の“根っこ”には民族問題があることが多い。芸術や文化にも“民族”を扱ったものは非常に多く、もはやビジネスパーソンの必須教養と言ってもいいだろう。本連載では、世界96ヵ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養「世界の民族」超入門』(ダイヤモンド社)の内容から、多様性・SDGs時代の世界の常識をお伝えしていく。
民族融和でも、経済格差が分断を生む?
「先住民やマイノリティが国家権力の中枢にいない国」はたくさんありますが、日系人のフジモリ大統領を生んだペルーを見てもわかる通り、中南米は例外的なエリアといえます。
当然ながら、政治家として成功したのは、フジモリ元大統領の卓越した才能や政治力という属人的な要素が大きいと思いますが、中南米においては、日系人や先住民を含めたアジア系、黒人に対する偏見が少ないと思われます。
白人が多数派かつ主導的というアルゼンチンやウルグアイのような例外はありますが、それ以外の国であれば、言語や習慣に不自由がない移民2世3世に可能性はひらけてくる素地があります。
「中南米はダイバーシティ先進国で人種差別が少ない。融和的な国だ」
私のこの仮説はあながち間違いではないと思っていましたが、あるメキシコ人弁護士と議論したところ、手厳しく反論されました。
「人種差別は少ないけれど、その仮説は楽観的すぎますよ。メキシコはあまりにも経済的な格差が大きくて、貧しい人たちは肌が何色だろうと差別されています。
極論すれば『あいつらは違う民族・人種だ』というくらい社会的に虐げられている。貧しくて教育も受けられず、ギャングになるしかないティーンエイジャーを見てください。
あんなに排除されても、アメリカの国境を越えようとするメキシコ人が後を絶たないのを見ればわかるでしょう?
メキシコでは麻薬組織が取り締まりを管理しているところもある。メキシコだけじゃなく、コロンビアのマフィアはどうです? 人種差別がないからって、みんなにチャンスがあるわけじゃない」
確かに多くの中南米は犯罪率の高さで知られ、政治不安も抱えています。
財政は苦しく、政局も揺れ続けています。貧富の差を背景に、ポピュリスト的な政治家が権力を握っていることも一因でしょう。
差別が少ない民族の融和が、政治・経済をプラスに転じさせるかは、今後の中南米の試金石となると思います。