「人種・民族に関する問題は根深い…」。人種差別反対デモ、ウクライナ問題などを見てそう感じた人は多いだろう。差別や戦争、政治、経済など、実は世界で起こっている問題の“根っこ”には民族問題があることが多い。芸術や文化にも“民族”を扱ったものは非常に多く、もはやビジネスパーソンの必須教養と言ってもいいだろう。本連載では、世界96カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養「世界の民族」超入門』(ダイヤモンド社)の内容から、多様性・SDGs時代の世界の常識をお伝えしていく。
ロシアに蹂躙されてきたバルト三国
日本で北欧ブーム、フィンランドブームが起きた際、エストニアやラトビアも観光地として注目されるようになりました。
フィンランドのヘルシンキからエストニアのタリンはフェリーで2時間とあって、「週末は物価が安くて、かわいく個性的なものが多いエストニアへ買い物にいく」というフィンランド人も珍しくありません。
しかし、エストニアとラトビアにリトアニアを加えたバルト三国は、ロシア帝国に支配を受けた歴史を持ちます。
私は極力、訪問した国の歴史博物館に足を運ぶことにしていますが、エストニアの博物館にあったのは「世界で最も抑圧された民族の博物館」という趣旨の説明。ロシアからの抑圧の歴史が詳つまびらかにされていて驚きました。
バルト三国はスラブ系でもなく、ロシア正教でもなく、それぞれ違う個性を持ちます。
エストニアはフィンランドに近いウラル語を話す人々が住むプロテスタントの国。ラトビアはドイツの影響が強いといわれドイツ系の職人も多くいます。
彼らが話すのはインド・ヨーロッパ語族のバルト語です。プロテスタント系が多い国ですがカトリックもいます。
リトアニアもバルト語ですが、カトリックの国。16世紀にリトアニア・ポーランド共和国になったのち、徐々にポーランドの影響が強くなってきてカトリックが広まりました。
第二次世界大戦中、難を逃れようとするユダヤ人にビザを発給し、「日本のシンドラー」と称された杉原千畝は、リトアニアの日本領事館にいた外交官であることをご存じの方も多いでしょう。
たまたまロシア・ソ連に支配されて非常に屈辱的な思いをしたということが、この三つの国の最大の共通項です。
ソ連崩壊の時には、リトアニアはソ連軍と武力衝突もしています。現在もロシアが嫌いですから、バルト三国は揃ってEUに入り、通貨もユーロを用いています。
かいつまんで書きましたが、ここでお伝えしたいのは、隣接する小国だからといって「バルト三国」と一括りにしてはならない、それぞれに個性豊かな民族性がある国だということです。