プレイステーションの父と呼ばれる久夛良木健氏は昨年、近畿大学情報学部長に就任。いま、ITの世界の最先端でどんなことが起きているのかを大学生たちに教えている。その特別講義は、ビジネスパーソンこそ知っておきたい内容だ。今回は「ブレイン・コンピュータ・インターフェース」の授業に潜入してみよう。久夛良木氏はこの分野のどんなところに着目し、どんなところを面白いと思っているのか、それは……。
ブレイン(脳)+コンピュータ+インターフェースって何だろう?
今日のテーマは「ブレイン・コンピュータ・インターフェース」(以下BCI)です。すごく分かりやすい英語だけど、こう聞いて何をイメージするかな?
学生1:ブレインとコンピュータとインターフェース……それぞれの単語の意味は分かるんですけど、そのつながりがよく分からないです。
今までこういうテーマのマンガとかアニメとかなかったかな? 君はどう?
学生2:僕が最初にイメージしたのは、「ソードアートオンライン」っていうライトノベルが原作のアニメです。頭にヘルメットみたいなものをかぶってVRゲームをする話なんですけど……ブレイン・コンピュータでインターフェースって、そういうことかな?って。
他にはどうかな? 想像でいいよ。
学生3:この字面から想像したのは……人間の脳をコンピュータとして……つないで、CPUみたいな感じで扱うとか?
じゃあ脳につないで、君は何をさせたい? 何ができたら楽しい?
学生3:ううん……想像はできないです。難しい。
皆さんの予備知識とか、期待について聞いてみたかったけど、BCIってあまり聞いたことがなかったかもしれないね。このゼミではイノベーションをテーマにいろんな最新の話題を取り上げているよね。自動運転とかロボットとかは比較的分かりやすかったと思うけど、今回のBCIや、次の「テレイグジスタンス」とかは少しイメージがしづらいかもしれない。
今回このテーマを取り上げたのは、前回の医療革命とコンピュータをつなげて考えてみたいと思ったからです。じゃあここから、BCIについて皆さんにお話ししていきたいと思います。
脳波の発見と、SF映画の中のBCI
脳波が発見されたのは1929年。ドイツのハンス・バーガーという人が、脳からも信号が出ていることを見いだした。アルファー波、ガンマ波などが有名。すごい低周波なんだけど、頭に電極を付けることで脳波を測ることができると分かった。それ以来、人間の脳波を観察するという研究が進みました。
リラックスしているとアルファー波がたくさん出ているとか。逆に精神状態によっては乱れる時もあるとか。脳波は一定ではないので、正常な人間の脳波もゆるやかに揺らいでいるんですが、病気でも脳波が大きく乱れることがあるんです。例えばパーキンソン病とかね。あとは、てんかんの発作が起きたときに脳波が乱れる、といった現象面の観察が進みました。
1983年に「ブレインストーム」というSF映画があってね。ブレインストームというのは、脳が混乱する状態ということで、もちろんフィクションなんだけど、この映画では自分の脳の状態を外部に信号として取り出すことができるという設定だった。逆に、自分の脳に外から信号を与えることもできて、そうするとある「体験」をすることができる。つまり、他人の体験を、自分の脳に移植できる。
さらにこの映画では、それを外部に記録できるという設定にもなっていた。ビデオレコーダーみたいなのがあって、自分に起きていることや感じたことを記録できる。しかも記録したものを、他の人の頭にヘッドセットをかぶせて追体験することもできる……というSF映画でした。
これ、すごくないですか? だって、いま我々はスマホの画面でいろんな映像を見ていますよね。これがスマホの画面じゃなくて、自分の経験として直接頭脳にマッピングできるということ。ここまでくると結構恐ろしい話なわけ。だって、他人の経験を自分のことのように感じるということは、自分の脳が乗っ取られてしまうようなものだからね。
マンガやアニメにもあるよね、突然、魂や霊が降りてきて、乗りうつると突然違う人になりきってしまう、みたいな。憑依(ひょうい)とか臨死体験とか、そういうことができてしまう、という映画だった。考えれば恐ろしいことだけど、1984年当時、先生がこの映画を見たときは「将来そんな時代も来るのかも?」とうっすら考えていました。