職場で困っている人を見かけても、「おせっかいだったらどうしよう…」と躊躇したり、「たぶん大丈夫だろう…!」と自分に言い訳したり……。
気づかいをするときには、つい「心の壁」が現れてしまい、なかなか一歩が踏み出せないことが、あなたにもあるのではないでしょうか?
この連載では、「顧客ロイヤルティ(お客さまとの信頼関係づくり)」をベースに、ビジネスセミナーへの登壇やコミュニケーションスキルの研修講師を通して、全国200社・2万人以上のビジネスパーソンに向けて教えてきた『気づかいの壁』の著者、川原礼子さんが、「気がつくだけの人」で終わらず、「気がきく人」に変われる、とっておきのコツをご紹介します。
「熱烈さ」もほどほどに
依頼メールの上手な人は、どのような文章を書いているのでしょうか。
お願いをするからには、相手に許可や快諾をいただくことが目的です。
ただ、最終的な判断は、やはり相手がすることです。どんなに魅力的な依頼でも、スケジュールが合わなければ受けられません。無理なものは無理です。
そうであるならば、「断れる余白」があると、お互いにとって心の負担が軽くなります。
ところが、次のようなメールを送っていないでしょうか。
ダメなメール
このたびの講演会のゲストには、佐藤さま以外に適任者はいないと事務局全員の思いが一致しました。
つきましては、ぜひとも私どもにお力をお貸し願えませんでしょうか。
どのような条件も検討させていただきます。ご参加者のみなさまの喜ぶ顔が、今からでも目に浮かぶようです。
詳細を下記のようにお伝えいたします。
いかがでしょうか。もし、都合がつかなくて断らなければならない場合には、この熱烈さが相手の心の負担になります。
返信するのに苦心しますよね。こうなってしまうと、相手の領土に踏み込むことになるのです。
「次につながること」を考えよう
先ほども述べたように、「断れる余白」も入れておくのが、ビジネスでの依頼メールを送る際の気づかいです。
特に、感触を確かめるような初回の連絡は、概要がわかるくらいで十分です。
次のような文章なら、さっと要件を確認できて、もし断るにしても大きな負担を感じないで済むでしょう。
いいメール
初めてのご連絡させていただきます。
「運動会NIPPON2023」事務局の川原と申します。
本日は、海外遠征経験の長い佐藤様に、当イベントのゲストとしてスピーチをお願いしたく、ご連絡させていただきました。
「運動会NIPPON2023」は、海外観光客に日本の運動会を楽しんでいただきながら、日本の大学生との交流を目的にしています。
【運動会NIPPON2023】
場所:ABCドーム 会場A
日時:2023年6月3日(土)10:00~15:00
まずは、ご興味を持っていただけるかだけでも、お聞かせ願えませんでしょうか。
かないましたら、直接ご説明させていただきたいと思っております。
ご返信をお待ちしております。なにとぞ、よろしくお願いいたします。
すると、今回は都合がつかなくても、次回は受けてくれる可能性が高まります。
熱い思いを伝えるのは、次に会ったときまでとっておきましょう。
「頼まれごと」は嬉しいもの
さて、「断られる余白」は残すものの、もちろん喜んで受け入れてもらえるなら、それに越したことはありません。
そのための気づかいについても、述べておきましょう。
世の中には、人に頼むことが苦手な人がいます。そういう人は、相手に負担をかけたくないと考えるからでしょう。
ただ、上司や先輩に「折り入って頼みがある」と言われれば、嬉しく感じる人がほとんどです。忙しいときでも、頼まれることで自尊心が満たされるのであれば、「まんざらでもないな」と思うのではないでしょうか。
依頼するときに大事な気づかいは、「依頼理由をハッキリさせる」ということです。
たとえば、雑用を任せるようなときに、「君ならできる。だって君だもの」などと意味不明な理由を言われても、押し付けられたような気にしかならないはずです。
相手のことを見て、できるかぎり具体的に、ちゃんと考えていることを伝えたいものです。
そこで、次の依頼メールを見てください。
いいメール
お願いがあります。明日のリーダー会議に私の代わりに出席してもらいたいんです。
急に取引先に呼ばれたので、欠席することになりました。明日の発表は、〇〇さんもメンバーに入っている※※プロジェクトについてですし、チーム会でもいつも堂々と発表している姿を見て、〇〇さんにお願いしたいと思いました。引き受けてもらえませんか。
ここまで依頼理由が明確だと、「よし、一肌脱ごう!」という気持ちにならないでしょうか。
こういった明確な理由がなかったり、断っているのにあまりにしつこかったりすると、相手の領土に踏み込むことになります。
お互いが気持ちよく引き受けたり断ったりできるような文章が書けるようになりましょう。
株式会社シーストーリーズ 代表取締役
元・株式会社リクルートCS推進室教育チームリーダー
高校卒業後、カリフォルニア州College of Marinに留学。その後、米国で永住権を取得し、カリフォルニア州バークレー・コンコードで寿司店の女将を8年経験。
2005年、株式会社リクルート入社。CS推進室でクレーム対応を中心に電話・メール対応、責任者対応を経験後、教育チームリーダーを歴任。年間100回を超える社員研修および取引先向けの研修・セミナー登壇を経験後独立。株式会社シーストーリーズ(C-Stories)を設立し、クチコミとご紹介だけで情報サービス会社・旅行会社などと年間契約を結ぶほか、食品会社・教育サービス会社・IT企業・旅館など、多業種にわたるリピーター企業を中心に“関係性構築”を目的とした顧客コミュニケーション指導およびリーダー・社内トレーナーの育成に従事。コンサルタント・講師として活動中。『気づかいの壁』(ダイヤモンド社)が初の著書となる。