日本で起きた
“合法的手段”による技術流出例
(1)合弁設立を経由した情報流出例(中国/製造業)
B社は、代表が経営者交流会で出会った在日中国人ビジネスマンから中国への進出を促され、ちょうどB社の事業が伸び悩んでいたことから、中国に進出し、中国現地企業との合弁会社を設立。
この在日中国人ビジネスマンとは、大学時に専攻していたニッチな専門分野で意気投合したという。
そして、中国企業との合弁では、B社は最新の技術を合弁先に共有しないという立場を取っておきながらも、B社のガバナンスが弱いがために、現地の技術指導の際にB社日本人社員が機微情報を持ち出してしまい、同情報を現地技術者に渡し、結果現地に技術情報が共有されてしまった。
B社の中国事業は伸び悩んだことから合弁を解消したが、技術情報は現地に残ったままという事例である。
(2)投資・買収を経由した情報流出例(中国/各種業種)
国内Zファンドが資金を蓄え、製造業関連の老舗日本企業の買収を続々と進めた。
Zファンドの表向きのプレーヤーは全て日本人であり、問題ないように思えるが、実際は背後に中国共産党の影響下にいる中国人男性がおり、Zファンドは一部、同中国人男性の意向に沿った買収を進めていた。
買収により、日本企業内の技術やノウハウは同中国人男性の手中に落ちることになった。
このように中国が背後に潜み、フロント企業として日本企業や台湾企業などを使って買収するケースは実際に多い。
一方で、このような経済活動においては、スパイ事案とは違い、オープンソースの分析(OSINT)で、その背景関係に関する情報を収集し、疑問点や懸念点を可視化させることは十分可能である。
なお、こうした投資・買収で標的とされやすいのは後継者不足に悩む中小企業である。
(3)留学生を経由した情報流出(中国/大学・研究機関)
某大学の工学分野の研究に関し、T氏という中国人留学生が従事していたが、同氏には中国系の不審な属性は見られなかった。
しかし、T氏と親密にしている同じ留学生Y氏は、中国大使館と密接に連携しており、Y氏の仲介によりT氏は中国大使館教育処のパーティーへの出席や大使館職員との会食を重ねるようになった。
だが、大学側はT氏の交友関係については把握していなかったと思われる。T氏は中国共産党に近い人物たちとの関係を構築しながら研究を続け、帰国した。
帰国後は、中国人民解放軍との関係が懸念される中国大手企業に就社。技術流出したか否かは判断できないが、その危険性は非常に高い。
日本において外為法が改正され、みなし輸出管理(※)などが導入されたが、前述の事案のように、帰国後に国家の強い影響下に入るパターンも存在し、その対応が非常に難しい。
(※)みなし輸出管理とは、日本国内で、「非居住者」に対して特定の機微技術を提供することを目的とする取引を管理する制度。
ちなみに、中国から海外に留学する留学生を「海亀」と呼ぶ。
彼らは当初善意の人間であっても、中国当局からの直接の指示や学生組織などを通じた接触により、後にその指示に従わざるを得ずに情報を提供してしまう場合があるが、中国国家情報法によって国の情報活動への協力が義務となっている背景もある。
そして、中国当局は、中国人留学生親睦会などのコミュニティーの幹部にスパイの任務を与え、見返りに、大学卒業後に主要な企業や研究機関への就職を斡旋することもある。
さらに、中国人民解放軍に所属する人間が各国大学や研究機関、企業に派遣されるパターンもあるが、中国国防に関与する大学と提携している日本の大学などに潜入している可能性は十分ある。