「運営実態や収益面などから、ヤフーは記事の提供元と共同事業を営んでいる、と評価するのが妥当だと思う。その点を十分に加味せず判断しているように感じられます」

 山本さんは控訴の方針だ。配信会社の責任の所在に関するネット上の署名活動も検討している。山本弁護士は「控訴審では主な論点がヤフーの『発信者』該当性に集約される形になると思う」としている。

ヤフトピ記事の影響力

 一方、判決についてヤフーは本誌の取材に「ニュースポータルサイト運営者としての当方の主張が認められたものと思っております。掲載いただくコンテンツにつきましては、今後の記事品質維持の対応を検討してまいります」とコメントした。

 ヤフーニュースはメディア媒体なのか、単なるプラットフォームなのか。

「長く議論されているが、いまだ解決が難しい」と話すのは情報社会学が専門の城西大学の塚越健司助教だ。今回の判決については玉虫色の印象も受ける、と言う。

「今は法的なコンセンサスを作る過程にあり、上級審で詰めてください、という含みもあるのでは」

 ヤフーニュースには20年6月末時点で、新聞社や通信社など600以上の情報提供元から1日平均6千本の記事が掲載され、閲覧数は月約225億PVに上る。ヤフーが情報提供元から記事配信契約を締結する際、審査を経て契約に至るのは配信元候補の3割程度だという。

「ヤフトピに上がる記事は、どの新聞のどの記事よりも読まれるでしょう。そう考えた時にプラットフォーマーが相当な社会的影響力を持つのは事実。一方で、ヤフーに集まる記事が膨大すぎるため、すべての記事をチェックできないのも事実です。もちろん、そうした構造自体の問題も議論すべきでしょう。ただ、近年はジャーナリズムの倫理に縛られないプラットフォーマーへの規制が多くなりつつありますが、米国を含む海外でも最終的な答えは出ていません」(塚越さん)

「東スポ」と同じ記事を配信したYahoo!に賠償責任はあるのか~俳優・山本裕典さん名誉毀損裁判国内におけるネットニュースの影響力は、新聞社や雑誌メディアの自社サイトより、ヤフーなどのプラットフォーマーのほうが大きいといっても過言ではない(写真/写真映像部・上田泰世)

ネット誹謗中傷の背景

 ヤフーも昨年11月からヤフコメの投稿について携帯電話番号の登録を必須化するなど誹謗中傷対策を強化。悪質な利用者が56%減ったと発表している。だがそれでも、悪質なコメントを排除しきれないのが実情だ。

 塚越さんは言う。

「ネット上の誹謗中傷を生み出しているのは社会全体の問題と捉える必要もあります。ヤフーの責任を認めても特定の個人を罰しても、それだけではネット上のヘイトや差別は止まらないと思います。加害者には更生プログラムをつくって受けさせるなど、多方面から解決を図るべきだと思います」

(編集部・渡辺 豪)

AERA 2023年4月17日号

AERA dot.より転載