女性の仮面ライダーが登場、
人形劇では性別のない「ひょうたん」キャラが活躍

 比較的最初に風穴を開けて、このムーブメントの皮切りとなったのは仮面ライダーであろうか。

 仮面ライダーといえば主に男性であり、若きイケメン俳優の登竜門でもあった。女性の仮面ライダーもいることにはいたが、劇場版だけの登場であったりと、「主な登場人物」と称するようなものではなかった。2012〜2013年の『仮面ライダーウィザード』で初めて女性ライダーがテレビシリーズに登場したことで、ファンはかなりざわついた。
 
 作品における女性ライダーの比重は徐々に増していき、ついに2019〜2020年の『仮面ライダーゼロワン』で、女性ライダー・仮面ライダーバルキリーが物語の最初から最後までがっつり登場することになった。制作発表時から女性ライダーの登場が知らされたのはこの仮面ライダーバルキリーが初めてで、ファンはとてもびっくりしたそうである。
 
 ファンを驚かせはしたものの、女性ライダーの盤石なレギュラー入りについて、世の中全体の雰囲気はウエルカムであった。「仮面ライダーは男の子が見るもの」という世の既成概念によって、仮面ライダーを楽しみたいのにそれが禁じられている女の子の存在がしばしば語られてきていたからだ。これを機に、公式が女性ライダーに市民権を与え、そうした女の子も救われる形となったのである。
 
 しかし、ジェンダーレスがもっと直接意識された子ども向けのフィクション作品と言うと、2022年から始まった『ファンターネ!』であろうか。

『ファンターネ!』は、NHKの国民的子ども向け番組『おかあさんといっしょ』内で繰り広げられる人形劇コーナーで、「可能性と多様性」がテーマとして扱われている。
 
 メインの登場人物は3人で、カッパの女の子・みもも、ライオンの男の子・ルチータ、そしてひょうたんの子ども・やころである。やころは公式サイトにはっきり「性別はない」と書かれている。
 
 カッパ、ライオンと来てからの“ひょうたん”はさすがに異質であり、「性別はない」のセンセーショナルさもその異質さに薄められるかと思えば決してそんなことはなく、無性別やころの登場は大きな驚きをもって世間に迎えられた。

 当時いくつものネットニュースがこれについて取り上げ、「ついにそんな時代が来たのか…」とお父さんお母さんを感嘆させた。また、「そこまでしなくてもいいのでは」「ジェンダーレスを意識しすぎて妙なことになっている」といった声もあった。
 
 そして初回放送時、やころが歌を一部披露するパートがあって、これがいい声でうまかったのでさらなる驚きを呼び、以降やころは度々ツイッタートレンド入りすることになる(なお、「やころ」ではなく「ひょうたん」でトレンド入りすることも数度あったようである)。

 放送が始まってしまえば、無性別のやころも愛らしい幼児キャラであり、「やころは無性別」という設定も取り立てて意識されることなく消化されるようになった。なお筆者が4歳の娘に「やころは男の子とか女の子とかないんだよ」と説明を試みたところ、特に返事がないものの硬直していたので、子どもなりにジェンダーレスを理解しようと脳のCPUを高速稼働させている様子であった。