たった1つのその理由。それは、「恐れ」です。

 あまりにも単純な答えで、びっくりされたでしょうか? しかし、心理学や生物学においても、これはまぎれもない事実なのです。

 人間に限らず生物は、「苦痛」を避け、「快楽」を求めるよう遺伝子によってプログラムされています。特に私たち人間は、過去に受けた苦痛を「恐れ」として記憶し、再び同じ苦痛を受けないように回避しようとします。

 つまり、学校に行けない子どもたちは、学校に行くことによって受けるかもしれない苦痛を避ける(恐れる)ために、学校へ行かない(行けない)のです。考えようによっては、人間として正常な行動と言えるのかもしれません。

 学校で受けるかもしれない苦痛や恐れには、いろいろなものがあるでしょう。

 肉体的暴力、精神的暴力、将来に対する不安、親の愛に対する不安などに対する恐れから、子どもは学校に行けなくなってしまうのです。

「生まれてこなければよかった」「どうなってもいい」 はウソ

 お子さんが思春期になると、親には子どものことが見えづらくなってきます。

 男の子は特に、家での口数が減る場合が多いので、お母さんは「何を考えているか、わからない!」と悩みがちになります。

 勉強もあまりしていないようだし、交友関係もわからない。もしかすると不良とつき合っているかも……。そのような状況になってくると、往々にして、親子でのぶつかり合いが始まります。

「いったい何を考えているの!」「勉強はちゃんとしているの?」「悪い子たちとつき合うのはやめなさい!」

 ついガミガミ言ってしまう親に、お子さんも暴言を吐くことがあります。中には「なんで僕(私)なんかを産んだんだ!」「こんな家に生まれてこなければよかった」などの言葉をぶつけられ、滅入ってしまう親御さんもたくさんいらっしゃいます。

 Sさんもその一人。相談を受けたとき、Sさんの息子さんは中2で、不登校になって4カ月目でした。