ただし、「褒め過ぎ」に注意!
「承認欲求」を満たすことは、「部下を褒めること」ともつながります。褒めることは、近年、多くの企業で奨励されるようになっています。民間の検定が設けられるほどで、多くのベテランマネジメント層の方たちが、「とにかく部下を褒めなければ」と躍起になっている場合もあります。
ただし、私は褒めすぎにも注意しなければならないと考えています。組織学者・経営学者である同志社大学の太田肇教授は、その著書『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)で、現代人が承認欲求に縛られて身動きが取れなくなっていることを指摘しています。
考えさせられるのは、同書の中で取り上げられたある病院の事例です。その病院では、看護師など医療従事者が常に売り手市場傾向で離職率が高い課題に対して、ある策を練りました。病院の経営効率向上と給与アップが難しい中、医療従事者をもっと褒めようと、「最優秀職員賞」を設け、定期的に表彰する取り組みを行ったのです。
ところが蓋を開けると、この賞を受賞した人のほうが比較的短い期間で辞めていくという現象が起きていたのです。その理由を追跡して分かったのは、褒められて表彰されることで「次はもっと頑張らねば」というプレッシャーを感じ、それに耐えられず辞めていく人が多い事実でした。表彰されるほどの人は、責任感も強かったのでしょう。「表彰を受けたにもかかわらず、これ以上はもう頑張れない」と感じ、辞めてしまっていたのです。この事例からも、褒めることの難しさが分かります。
部下を褒める際には、過度な褒め方で過大な期待をかけてしまうと、プレッシャーでつぶれてしまう恐れもあります。偏ることなく部下全員を褒めることを心がけ、漠然とではなく具体的な成果や工夫を認めることです。一人ひとりの状態や気持ちをよく考え、適度な励ましになるよう、配慮することもが重要なのです。