契約社員の
正社員化に踏み切る
「デジタルに強い」との評価を得たユニバーサル ミュージックを支えるのが社員だ。社長就任と同時に「人を愛し、音楽を愛し、感動を届ける」という社訓を掲げ、社員が輝ける環境づくりに動いた。
ストリーミング時代の到来を見据え、音楽業界では異例といえる契約社員330人の正社員化に踏み切ったのだ。アーティストに支持される人材の育成・確保が欠かせないと判断、18年に希望者は全員、正社員にした。
CDは「発売から3カ月まで」でそのCDの売り上げの9割が決まる。これに対し、ストリーミングは配信して瞬時にトップに躍り出るわけではない。むしろ発売後からが勝負だ。1~2年かけて徐々にフォロワーがついてきてヒット曲まで育つこともある。
長い目で見ないとアーティストや作品を育てられなくなるわけで、社員も中長期でアーティストと伴走できる体制に切り替える必要があると考えた。
正社員化の成果は業績として表れており、「ステークホルダー(利害関係者)に説明できる」と胸を張る。正社員化はアーティストにとっても会社にとっても正解だった。社員の本気度が上がることでアーティストに選ばれる会社になり、ステークホルダーにも認められ、採用にもつながるという好循環が生まれた。
ではコロナ禍をどう乗り切ったのか。
前述のようにコロナ禍で公演は相次ぎ中止に追い込まれ、ライブハウスは感染拡大源の一つとみなされ、音楽は「不要不急」の烙(らく)印を押された。
音楽業界にとって非常に厳しい状況であったが、ユニバーサル ミュージックはアーティストの自宅録音や無観客ライブをサポートし、才能の発掘場所をライブハウスから動画サイトに切り替えた。こうした中からAdoや藤井風といった才能が世界に羽ばたいていった。
医療従事者を音楽で鼓舞
コロナ禍を機に音楽を通じた新たな取り組みも生まれた。
21年2月から始めた医療現場での音楽(サインミュージック)の活用だ。例えば、百貨店では雨になると特定の音楽を流して従業員に降雨を知らせることがある。このように「何かの合図として意図的に特定の音楽を流すこと」をサインミュージックという。これをコロナ禍で疲弊した医療従事者を鼓舞するために使った。
神奈川県内の病院でコロナ患者の退院時に特定の音楽を流すことにしたところ、医療従事者からは「(その音楽を聴くと)今日も患者の命を救えた」と心の支えになったと反響があった。音楽が医療従事者の心の栄養になったのだ。アーティストも医療に貢献できたと喜んでいる。
「われわれはどんなときでも作品をつくり、届ける。人に寄り添うのが音楽なのだ」と藤倉氏は言い切る。