「6174」の不思議
整数の不思議な性質をもう1つ紹介しよう。それは「6174」という数字が持つ不思議な性質だ。この原稿は2019年の夏に書いているのだが、今、この「2019」という4桁の数字に使われている4つの数字を使ってできる最も大きい数と最も小さい数の差を考える。
すなわち「9210」と「0129」の差である(0129は129と考える)。計算すると「9081」を得る。この「9081」に対しても同じことを行うと「9621」となり、さらに繰り返すと「8352」である。8352に対しては「8532」と「2358」の差であるから「6174」を得る。
ここまでは別段なにも面白いことはない。むしろ退屈だと思う。しかし、同様の操作を繰り返すと、最初がどのような4桁であっても、必ずいつかは「6174」になると知ったらどうだろう?
大いに驚くのではないだろうか。誰でも簡単に確かめられるので、ご自分の生まれ年等でぜひ確かめてもらいたい(ただし「9999」のようなすべての桁が同じ数の場合は「0」になる)。
このような性質を持つ数のことをカプレカ数という。カプレカというのは、この性質を発見した20世紀のインドの数学者の名前である。4桁のカプレカ数は、6174だけであるが、3桁のカプレカ数には「495」があり、6桁のカプレカ数には「549945」と「631764」がある(5桁のカプレカ数はない)。「0」も含めてこれまでに全部で20個のカプレカ数が見つかっている。
19世紀最大の数学者の1人であるドイツのカール・フリードリヒ・ガウス(1777~1855)はかつて「数論は数学の女王だ」と言った。これは、数論が最高ランクに難しいだけでなく、数論における発想の多くが美しいからだと私は思う。
また、数論の手法や理論は独特で他の分野にはあまり応用されないという孤高を持していることも、数論に「女王」然とした風格を感じる一因になっているのかもしれない。
(本原稿は『とてつもない数学』からの抜粋です)