いま話題の『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』(ダイヤモンド社)。
著者の脳内科医・加藤俊徳氏によると、左利きと右利きでは「脳の仕組み」が違うといいます。それはいったい、どんな違いなのか……。10人に1人といわれる「左利きの疑問」を解き明かすため、加藤氏にお話を伺いました。(構成・塩尻朋子 初出:2022年4月28日)

「左利き」の男女別特徴! 脳内科医が徹底解説!――10人に1人「左利き」の疑問を解き明かす【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

同じ左利きでも、脳の違いはあるの?

──左利きは右利きとは違う、脳の使い方をしているとのことですが、同じ左利きでも、男性、女性の違いはあるのでしょうか。

加藤俊徳先生(以下、加藤):人間の脳には「記憶の司令塔」と言える、海馬という部分があります。

 勉強して学んだことや、日々のできごとなどは、まず海馬に記憶されます。そのあと記憶は、海馬で整理されて大脳にも形状記憶が進んでいきます。

 海馬は、右脳と左脳の両方にあり、子どもが成長するときは、右脳の海馬が先に発達します。

 つまり、言語にかかわる左脳よりも、言語以外のあらゆる情報を蓄積する役割をする右脳の海馬のほうが、先に成長するのです。

──海馬の発達に、男女差があるのですか。

加藤:実は、男性のほうが女性よりも、左脳の海馬の発達が遅れがちなことがわかっています。

 一方で、女性の場合、左脳の海馬の成長がさほど遅れない。だから、幼いころから女性は、言語能力が発達し、「おしゃべり」が得意なのではないかと考えられます。

──おもしろいですね。性格的におしゃべりが好きなのではなく、脳の機能から話好きになるのですね。

加藤:男性と女性を比較すると、生まれつきの脳機能の発達が偏る「発達障害」は、おおよそ3:2の割合で男性が多いことがわかっています。

 この割合は、そのまま左脳の海馬の発達が遅れる男女比に当てはまります。

左利きの男性は言語機能の発達が遅れがち

──それは、左利きに限っても同じでしょうか。

加藤:海馬の発達が遅れる割合は、右利き、左利きとも違いは明確になっていません。

 しかし、たとえば、左脳の海馬の発達が遅れている右利きの男性と左利きの男性がいたとしたら、右利きの男性は、右手を使って言語脳である左脳を日常的に刺激しますが、左利きの男性は、左手を使って右脳ばかりを活性化させることになります。

 つまり、右利きの男性よりも左利きのほうが、より言語機能の発達が遅れやすくなります。

 また、左利きの女性と男性を比較すると、同じように左手を使っていても、左脳の海馬の発達が遅れがちなことから、男性のほうが言葉にするのが苦手な場合が多いと言えるでしょう。

──男性が口下手なのは、脳の機能も関係していたのですね。

加藤:子どもの成長期だけでなく、大人になっても、左利きの男性は左脳を活性化する機会が少ないので、どうしてもしゃべるのが苦手になりがちです。

 たとえば私は、仕事をしているときは、意識してわかりやすく話すようにしていますが、家では「あれ、取ってくれる?」「それ、こうしてくれる?」などと言いがちなので、家族によく注意されています(笑)。

 左利きの男性にとっては、言葉を使って話をすることのハードルはとても高いのです。

 脳科学的には、「右利きの女性」→「右利きの男性」→「左利きの女性」→「左利きの男性」の順に、話をするのが得意なのだと言えるでしょう。

 ただし、「右利きの男性」と「左利きの女性」は、現実にはむしろ逆のことが多いかもしれません。その理由は、「左利きの女性」を取り巻く環境に「右利きの女性」が多ければ言語が育まれやすくなると考えられます。