クレームを言うお客さまにもいろいろなタイプがいる。理詰めの客、言い分が見当違いな客、謝罪を迫る客……。なかでも、特に多くの人が嫌だと感じているのは「怒鳴る客」ではないだろうか。電話越しにしろ、対面にしろ、突然怒鳴られて萎縮しない人はほとんどいない。話も通じないし、体を小さくして相手の怒りが収まるのを待つしかない、というパターンが多いはずだ。しかし、『クレーム対応 最強の話しかた』の著者で、クレーム・コンサルタントの山下由美氏は、「相手の怒りをコントロールするのが意外と楽なのは、最初から怒鳴ってくるお客さま」と語る。本記事では、本書の内容をもとに、「怒鳴る客の怒りの収め方」を紹介する。(構成:神代裕子)

クレーム対応 最強の話しかたPhoto: Adobe Stock

いきなり怒鳴ってくる客への対応策

 客からいきなり怒鳴りつけられる。働いていて、これほど心臓に悪いこともなかなかないだろう。

 筆者もアルバイトで接客業をしているときに一度経験したことがあるが、そのお客さまがなぜそれほど怒っているのか状況もよくわからないし、相手が年上の男性だとかなり怖い。

 その時は、ただただ嵐が過ぎ去るのを待つように、その客が怒鳴り終わるのを待ったのを覚えている。

 幸い、ひとしきり怒鳴った後は会話が成り立ち、要望に沿うことができたのでことなきを得たが、正直なところ、怒鳴る客はもうご免である。

 しかし、『クレーム対応 最強の話しかた』の著者でクレーム・コンサルタントの山下由美氏は、こういった「最初から怒鳴ってくるお客さま」に対する意外な対応策を教えてくれる。

 それは、「怒鳴るお客さまと同じように、怒鳴るくらいのトーンで謝る!」という方法だ。

怒鳴る客には「怒鳴り返すように謝る」

 いくらなんでも「怒鳴り返すように謝る」と、余計怒りを買いそうな気がするが、山下氏は「この方法で今まで失敗した例はない」と自信を持って語る。

 その理由は次の通りだ。

じつは怒鳴るお客さまのほとんどが、怒鳴ることでこちらが萎縮するのを心のどこかで期待しています。言い方を変えれば、怒鳴ることで相手を萎縮させ、交渉の優位に立とうとしているのです。(中略)意識的にせよ無意識にせよ、そう期待しているところに、なんと大きな声で謝られた! すると、予想外の対応に、お客さまは一瞬たじろぐのです。(P.157)

 たじろいだその瞬間がチャンス。そこからお客さまを落ち着かせるように誘導していく、というのだ。

座らせて心拍数を下げることで冷静に

 この方法には続きがある。落ち着かせるためのアクションに移るのだが、一番いい方法が「落ち着ける場所に移動して座ってもらうこと」なのだそうだ。

人間は怒鳴っているときは血圧が上がり、心拍数が100を超えます。その状況では、お客さまの脳は論理的な会話ができない状態になっています。ですから、心拍数を下げさせるために、座ってもらうのです。座る動作によって大腿骨の筋肉が使われ血圧が下がります。(P.158)

「理論的な説明で冷静になってもらって心拍数を下げる」のではなく、「座ってもらうことで心拍数を下げ、冷静になってもらう」というのだから驚きだ。

 なおこの方法においては、「謝る」といってもこちらの非を認める訳ではなく、「ご足労いただいて申し訳ありません!」など、謝る対象を限定する言葉をつけて、クレームの本題とは別のことについて謝るのがポイントだ。

そして、相手が一瞬たじろいだ瞬間に「どうぞこちらにおかけください!」と誘導するのです。その場に椅子がなければ、「こちらでゆっくりお話をお聞かせください」と、バックヤードやカウンターの角に誘導します。(P.158-159)

 この方法で、お客さまはかなり落ち着き、怒鳴るのを止めるケースがほとんどだという。なんと素晴らしい方法だろうか。

電話口で怒鳴ってくる客にも同じ対応を

 先ほどは対面での対応を紹介したが、電話口で怒鳴られていたとしても、「怒鳴る勢いで謝ることの効果は同じ」なのだそうだ。

 ただし、電話の際の注意点は、「日頃から電話を受けるときは、ハキハキとした口調で語尾を上げるように心がけること」だ。

 その理由は、この方法だと「怒鳴られたときに一瞬でテンションを上げなければならなくなるため、語尾を下げて静かな口調で受けてしまうと、大声で謝るのが難しくなるから」と山下氏は語る。

 お客さまに怒鳴られるようなシーンには出会わないに越したことはないが、「もしも」の時のために日頃から「ハキハキと」と「語尾を上げて話す」は意識しておくといいだろう。

対処法を身につけて、クレームを解決!

 怒鳴るお客さまがいたら、まずは落ち着かせることが重要、ということだ。

 いつまでも怒鳴られていると話が進まないし、対応している側の気持ちも削られていく。周りのお客さまにも迷惑だ。

 まずは落ち着かせて、その後しっかりクレームの内容に対応していけば良い。

 本書には次のステップとして、クレーム対応の解決策が記載されているので、詳しくは手に取ってぜひ読んでみてほしい。

 特に、お客さまの相談窓口など、怒りに身を任せたお客さまの対応をすることが多い方は必見である。

 お客さまの怒りを上手にコントロールして、きちんとコミュニケーションを取れる状況をぜひ手に入れてほしい。