「クレーム」。聞くだけでなんとなく胃がキュッと縮む気持ちになる言葉だが、働いていれば、「言われた経験がある」という人が多いのではないだろうか。自分のしでかしたことならともかく、理不尽な理由やちょっとしたミスで怒鳴られることもあるため、対応に困ることも少なくない。そんなクレームはなぜ起きるのか、そしてどのように対応すべきなのかを教えてくれるのが『クレーム対応 最強の話しかた』だ。著者であるクレーム・コンサルタントの山下由美氏は、クレームを言う客は実は、「助けを求めている人」であり、「そのことに自分でも気がついていない」のだと語る。本記事では、その理由について、本書の内容をもとに解説する。(構成:神代裕子)
忘れられないクレームの思い出
あなたは、クレームを受けた経験はあるだろうか?
きっかけはちょっとしたミスかもしれないし、他の誰かの対応についてかもしれない。
理由はなんであれ、クレームはこちらが意図しない時に突然襲い掛かる厄介なものだ。
筆者も、学生の頃に忘れられない体験をしたことがある。
アルバイトをしていたショッピングモールで、中年の男性客から「こういった商品はどこに置いているの?」と聞かれ、「それなら、あちらのコーナーにあると思います!」と口頭で案内をした。
筆者としては、きちんと要望に応えたつもりだった。しかし、どうやらその男性が希望する商品と筆者のイメージした商品に齟齬があったようで、戻ってきたと思ったらすごい勢いで怒鳴られたのだ。
その時は、戸惑うばかりで、ひとまずその男性が怒鳴り終わるまで待って謝罪。「改めて、ご希望に沿うものをご案内してもいいですか?」と伝えたら怒りを収めてくれたため、それ以上おおごとにならずに済んだ。
もう随分昔の話だが、今でも男性の顔を思い出せるほど鮮烈な出来事として記憶に残っている。
クレームの最大の理由は積もり積もった鬱屈
筆者にとって「クレーム対応」はそれが初めての経験だったわけだが、今思い返しても、私がその男性客を激高させるほどのミスをしたとは思えないのだ。
商品に対するすり合わせ不足だっただけなので、「俺がイメージしていた商品と違ったんだけど、こういう商品は他に置いていないのかな?」と言ってくれれば済んだことのように思う。
なのに、なぜあんなにあの男性客は怒り心頭だったのだろうか。私の伝え方が悪かったか? 普通に返事をしたつもりだったが、何か態度が悪いように受け取られたのか? どうにも自分ではよくわからなかった。
このことを長年不思議に感じていたのだが、『クレーム対応 最強の話しかた』にその理由が語られていた。
本書によると、クレームを言う客の多くは「その日の朝からたくさんの感情の積み重ねがあって、溜まりに溜まった鬱屈で堪忍袋がぱんぱんになっていた」というのだ。
筆者の例で言うと、男性客の堪忍袋の緒を切ってしまったのは筆者の「求めていたものと違う案内」だったかもしれないが、そんな些細なことにも切れずにはいられないだけの不平不満や鬱屈が男性客に蓄積されていたということだ。
著者の山下氏は、さらに次のように指摘する。
怒鳴っている人は「困っている人」
積もりに積もった怒りや不満がギリギリまで溜まっているところに、最後の1滴を落としてしまったことでひどいクレームになる。
怒りをぶつけられた方としては、なんとも理不尽極まりないことだ。
山下氏も以前は「心が押しつぶされそうで助けてほしいなら、何も怒らなくてもいいのではないか? 助けてほしいとお願いすればいいのに」と思っていたのだそうだ。
しかし、クレーム対応をしているうちに、ある時、「怒鳴っている本人は『自分が助けを求めている』ことに気がついていない」と理解したという。
川で溺れている人と違って、「自分の感情に溺れている人は、自分に助けが必要なことに気がついていない」状態で、そんな人を助けるには「『心構え』と『スキル』の両輪が不可欠」だと山下氏は語る。
クレームを言ってくる客は、あくまでも「困っている人」であると考えれば、恐縮しすぎる必要も、気を遣いすぎる必要もない。
むしろ問題を解決してあげないといけないから、「お客さまが一体どういう状況にあるかを知ろうとすることが大事」ということだ。
「クレーム対応がうまくいくと、その人がファンになってくれる」という話もよく聞く。「怒鳴っている人=困っている人」と考えれば、怒鳴らずにいられないほど困っていることを解決してくれた人のファンになるというのも、納得の話である。
スキルも身につけて、上手なクレーム対応を
もちろん、クレーム客の怒りを収めつつ、解決に導くには「心構え」だけでなくさまざまな「スキル」が必要なのだが、それについて詳しくは本書をご覧いただきたい。
本書では、一般的に「クレーム対応の秘訣」として語られていることの多くが「間違った対応」と指摘されており、実に興味深い内容となっている。
相手の機嫌によって、小さなミスも大きなクレームになりかねないと知った今、対応策は知っておくに越したことはない。
結局、仕事は「人対人」。どんな仕事にも顧客はいるし、いつ自分がクレームを言われる側になるかわからないのだから。