意外なものからビジネスを見出す
研究者がやっている「遊び」とは

 高橋氏はマッチングアプリとビジネスを関連させた。このように意外なものから、ビジネス的要素を見いだすことはビジネスマンにとって大きな強みになるはずだ。そのような思考のコツを髙橋氏は述べる。

「一つはきちんと先端的な理論を知ることです。一般的なビジネス書の理論は古いものが多いので、もう少し専門的な本や論文を読むと新たな知識との出合いが得られると思います。とはいえ、これらを伝えるのは研究者の仕事なので、我々が十分に伝えられていないという反省もあります。今後は、私も専門書と並行して、そうした一般の方に伝わりやすい本を書いていきたいと思います」

 ただし、学ぶといっても、その姿勢によって使いこなせるかどうかが変わってくるという。

「『管理職になったから』『仕事で役立ちそうだからとりあえず勉強しよう』という姿勢では、実は自分のものとして使いこなせません。経営学は会社や管理職のための学問というイメージがありますが、先端の経営学の理論は、必ずしも企業経営だけを対象にしているわけではありません。それを知ればあらゆることが経営学で説明できる楽しさがあるんです。サッカーでも、釣りでもあらゆることを経営学的側面から説明できます。そういう楽しさを日常で見いだせたら、職場や会議でも『あっ!』というインスピレーションが生まれるはずです。世界が違って見えたら、行動もおのずと変わりますからね」

 高橋氏は授業での「ネタ話」として、日常的な物事を経営学で読み解く「遊び」をしているのだとか。サラリーマンにはなかなか難しい習慣かもしれないが、そのような思考を養っておけば、仕事で役に立つこともあるかもしれない。

 例えば、コンビニで新商品が出た際、高橋氏は「この商品はどんな企画会議をして通ったんだろう」とつい考えてしまい、「それがコケそうな商品であればあるほど考えがいがあり、楽しくてしょうがない」(高橋氏)のだそう。

「また、かつてジンギスカン味のキャラメルやたこ焼き味のキャンディなどのマズさを売りにする土産物が流行しました。さらに、それらは各地で発売され、マズい土産を専門に作る会社まで出現したことがありました。これは経営学でいう新結合という現象です。新結合とはこれまでにない組み合わせで新たな価値を作り、イノベーションを起こすことを指します。ペットボトルのお茶も典型例で、これは『お茶は急須でいれる』という日本社会の概念を変えました。マズい土産物も、マズさを価値に変え、それを紹介するブログも出現するなど、今までにない行動を生み出しました。こうした意外なところでもイノベーションは起きるので、日常的に社会を観察していくと仕事へのヒントも見つかるはずです」

 日常的な「遊び」で、観察眼を養い、知識をたくわえていこう。