キャズム理論やVIRO分析による
マッチングアプリの攻略法

 このような体験を通し、高橋氏は婚活市場が持つ二つの特徴を次のように分析した。

「一つは『スペックの可視化』。マッチングアプリや婚活パーティーでは相手を年齢、年収、職業、学歴などの項目でスペックを可視化できます。これによって、理想とする異性を比較考量することが可能となりました。二つめは『出会いの多頻度化』です。婚活市場ではスペックでソートをかけた相手と短時間で無制限に出会うことが可能です。このスペックの可視化と出会いの多頻度化によって、理想的な配偶者を比較して、いわば商品のように選ぶことが可能になった。こうして利用者は婚活市場のプレーヤーとなり、独特の力学を生み出すようになります。この力学が経営学などの学問とつながっていることなどを書きました」

 上記のような内容を学術書である『婚活戦略』で高橋氏は書いた。その後「当時の婚活で負った傷が癒えてきたとき、マッチングアプリを含めた婚活とのうまい付き合い方も提示しないといけないと思うようになった」(高橋氏)という。

 そうした中で、2冊目のオファーを受け、ビジネス的なことも学べるよう読みやすい私小説風の内容にした。高橋氏をモデルとして主人公の大学教員、yamaguchi氏が、専門分野である経済学、経営学、マーケティング論などの知識を駆使し、マッチングアプリを攻略していく物語だ。

「スペックの可視化と出会いの多頻度化によって、例え年収1000万円であっても、アプリでは数多くいる年収1000万円ゾーンの1人でしかなくなります。つまり、横並びの婚活市場では自分の比較優位を際立たせるニッチな部分、凸(デコ)をいかに発見するか、という戦略が重要になるのです。本書でも、基本的に主人公がいかにそうした自分の凸を作り、女性に訴求していく自分を作り込んでいくかをビジネス的な要素を絡めながら考える話になっています」

 こうして、高橋氏の分身でもある主人公のyamaguchi氏は4P/4C分析、キャズム理論、VIRO分析などでプロフィール作りや自分に興味を持ちそうな女性の絞り込みを行っていくのだ。

「私の経験では、取材でインタビュー記事が公開され、露出が増えたことで、『会いませんか』というメッセージが来るようになりました。さまざまなメディアに取り上げられたことで、狭い分野でも著名人という立場を得たことで、私に凸部分が生まれてしまったのだと知りました。これの経験を経営学でいう正統化戦略の利用と捉え直して、yamaguchi氏が利用していくエピソードとして加えています。前著は男性にとって厳しい現実を突きつける形になったため、読者からの感想のほとんどが絶望や怨嗟(えんさ)、悲鳴でした。なので、そうした婚活での負の連鎖を止めるようないい方法をお伝えしたい気持ちで、今回は攻略法的なことも書いています。まあ、肝心の私は成功していませんが……(笑)」