ビジネスマンの持ち物が
弁当から新聞へ変わった意味

 当時、駅前一等地の高い家賃はラーメン店に不向きとされていた。しかも、神田氏が相手にしてきたお客は夜が中心であり、昼間の売上獲得も喫緊の課題だった。

 神田氏は暇さえあれば埼京線の各駅に行き、ビジネスマンを観察した。そこで見たのは、ビジネスマンの通勤時の持ち物が弁当から新聞へと代わっていく変化であった。

「家庭から持参する弁当ではなく、職場や移動先で昼食や晩飯を手軽に食べる時代が来る」と確信した神田氏は、社員の反対を押し切って多額の借金をし、駅前出店を加速した。

 女神は神田氏に微笑んだ。都心駅前という立地は圧倒的集客力を発揮した。特段の広告を行わず、多くのお客が安価で質の高いラーメンを求めて集まった。

 都心立地の高い家賃、質の高い商品のための高い原価は、サラリーマンの昼食行動の変容や高採算の深夜営業によってカバーされた。発想の転換で、「都心駅前の格安ラーメンチェーン」が誕生した。