何かを提案をした時、こんな言葉を言われたことはないだろうか?
「なんか、普通だね」
「他の商品・サービスと何が違うの?」
「この会社でやる意味ある?」

などなど。サービスや商品、仕組みなど、新しい何かをつくろうとするとき、誰もが一度は投げかけられる言葉だろう。
そんな悩めるビジネスパーソンにおすすめなのが、細田高広氏の著作『コンセプトの教科書』。この連載では、グローバル企業、注目のスタートアップ、ヒット商品、そして行列ができるお店をつくってきた世界的クリエイティブ・ディレクターの細田氏が、コンセプトメイキングの発想法や表現法などを解説する。新しいものをつくるとき、役立つヒントが必ず見つかるはずだ。

二流は「参加した会議」で結果を出し、一流は「欠席した会議」でも結果を出す。その理由とは?Photo: Adobe Stock

ウサギではなく「のろまなカメ」になれ。

 アマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスは長期的視点でものを考えることを常に訴えてきました。1997年、いちばん最初の株主への手紙の中でも「長期的に市場リーダーとしての地位を固めることを考えて、投資判断を行い続けます」と書いています。こうして正しいことを、直接、伝えることはとても重要です。けれど、それだけでは不十分です。優れたリーダーやビジネスパーソンは、自分が不在であったり、直接的に語りかけない相手にも伝える術を持っていました。それは「言葉に働いてもらう」という発想です。

言葉に働いてもらう、という発想。

 ジェフ・ベゾスは、宇宙開発分野の競争相手であるイーロン・マスクが、度重なる失敗でマスコミに非難されていた際、近くにいたメンバーに「うさぎではなく、のろまなカメになれ」と言葉をかけます。伝えたかったのは、短期的な結果に左右されることなく、長期的な視点で考え、一歩一歩着実に進むべきだという常識的なことです。けれども、この1行は「AではなくB」という<比較強調法>と、「のろまなカメ」に喩える<メタファー法>の組み合わせで強烈な印象を残しました。結果、この言葉は瞬く間に全社のメンバーに広がっていくのです。同じことを伝える上でも、その場の説明で終わるか、すぐに理解され使われ広まるコンセプトにできるかで結果は大きく変わります。

コンセプトは、生産性を上げるものでもある。

 機能するコンセプトをつくることのメリットは、アイデアを明確に伝えるだけではありません。コンセプトは口の端にのって広まり、あなたの参加していない社内外の会議を盛り上げたり、新たな発想を誘発したりします。コンセプトはまた、決裁者へのプレゼンの成功率も高めます。エグゼクティブほど簡潔で芯を捉えた提案を求めているからです。さらにその先、コンセプトはマーケティングの起点となり、広告や商品に姿を変えて生活者のもとへと届けられていきます。

 言語力とは、そのまま、あなたの影響力。チームビルディングに、交渉に、プレゼンテーションに、マーケティングに。コンセプトは独り歩きして現場から現場へと駆け巡って仕事をこなしてくれるのです。忙しくて新しいアイデアに取り組む時間がない、という人こそコンセプトを学ぶメリットがあります。投資家たちがお金に働いてもらうように、私たちはもっと、言葉に働いてもらうべきなのです。

 このほかにも、『コンセプトの教科書』では、発想法から表現法まで、コンセプトづくりを超具体的に解説しています。