前述の調査結果からも見てとれるように、個人の価値観が多様化する中で、企業が画一的な採用手法や人事施策の運用を続けていくと、個人のやりがいや働きやすさが担保しづらくなり、ひいては優秀な人材を採用していことは難しくなります。一律的で画一的な人事施策から脱却し、個人の多様な価値観やその時のライフステージに応じた多様な選択肢を用意していくということは、人材確保という観点で、どの企業にとっても今後の重要なテーマになると考えられます。
そういった学生個人の価値観の変化や志向を踏まえて徐々に増えつつあるのが、配属における職務や勤務地を採用選考段階から明確に示す「職務限定型採用(ジョブ型採用)」になります。『就職白書2023』の調査結果では、「職務限定型採用(ジョブ型採用)」の24年卒の企業の導入予定は全体では1割に満たないのですが、5000人以上の大手企業では17.2%と2割近くになっています。
「ジョブ型採用」の実態は
「初任配属確約採用」?
また、2023年卒採用で「職務限定型採用(ジョブ型採用)」を実施していると回答した企業に、入社後の職務変更の有無について聞いた結果、「職務変更なし」が22.1%、「定められた期間の後、職務変更の可能性あり」が4.8%、「定められた期間はないが、職務変更の可能性あり」が33.7%、「未定(その時の状況による)」が35.6%と回答しています。
「ジョブ型採用」という名称がつけられてはいますが、本来のジョブ型雇用で謳われている、初期配属から定年までずっと職務変更はない(仕事に人が紐づいている)という考え方に則っている割合は約2割ほどしかありません。入社直後の「初任配属」は確約するものの、一定期間が経過した後、個人の要望や会社の状況によっては、職務変更・勤務地変更の可能性があるという企業が8割ほどあり、実質は、将来的に異動の可能性のあるメンバーシップ型であるというのが実状です。
ですので、日本の現在の「職務限定型採用(ジョブ型採用)」は、厳密には「初任配属確約採用」というべきかもしれません。ただ、今までのメンバーシップ型を前提とした人事異動と違うのは、初任配属やその後の異動についても、企業が一方的に決定するのではなく、個人のキャリア観や志向も考慮しながら、対話する中で決定するという形が増えて来ているということです。