マスコミのせいで「ジャニーズ危機管理」を良しとする社会に

 さて、ここまで3つの再発防止策が、平時のマスコミであればボロカスに叩くような非常識なものだということを指摘させていただいてきた。

 しかし、これからの日本では、そんな問題だらけの「ジャニーズ危機管理」を手本にしていく日本企業が増えていく可能性が高い。

 なぜかというと、マスコミが叩かないからだ。

 ご存じない方も多いだろうが、現在の日本の企業危機管理スタイルは、2000年の雪印集団食中毒事件の後に形づくられた。当時の社長が「私は寝ていないんだ」などの発言をしてマスコミから叩かれたことで、最終的にグループの解体・再編にまで発展してしまうという衝撃的な出来事を受けて、「雪印のに二の舞にならない方法」として確立された。

 つまり、「こうすれば、そこまでマスコミに叩かれない」という独特の視点によってつくられてきた方法論なのだ。

 今の日本の企業は、何か問題を起こしたら、迅速に社長などが会見を催して、とにもかくにもカメラの前で深々とおじきをする。そして、あらかじめ決められた台本に沿って謝罪や説明を繰り返して、不規則発言はできる限り避ける、というような対応だ。このスタイルは海外の企業ではほとんど見たことがない。

 これは日本独特の企業危機管理スタイルであるからで、マスコミの批判を回避するためのロジックに基づいている。こうすればマスコミは叩く、こういう説明をすればスルーしてくれる、というマスコミの「攻撃パターンの前例」を踏襲しているのだ。

 この大原則を踏まえて、あらためて今回のジャニーズ事務所の危機管理を振り返っていただきたい。確かに、これまでの常識からすればひどいものだが、事実としてそこまでマスコミからは叩かれていない。

 ネットやSNSではボロカスだが、テレビや新聞はこれまで説明したように「異常」などほどジャニーズ事務所に優しい。一般企業が同じことをしたら、「会見を開け」とか「第三者委員会を設置しないなんてありえない」なんてことを延々と叩かれるのに、あっさりとスルーされている。

 こういう「攻撃パターンの前例」ができたことは、前例踏襲主義の企業危機管理に大きな影響を与えるのだ。

 例えば、不祥事を起こした企業が、社長の謝罪ビデオメッセージをYouTubeにアップして、マスコミ各社にはQ&Aを配布したとしよう。

 さて、もしそこでワイドショーでいつものようにスタジオに巨大パネルを使って、「不祥事を起こして、こんな非誠実な対応をする会社などあり得ない」と大討論会を始めたら、皆さんはどう感じるだろうか。朝日新聞やNHKで、論説委員やらが「こんな対応は前代未聞です」と渋い顔で言ったらどう思うだろうか。

「ジャニーズ事務所の時は何も言わなかったくせによく言うよ」と思いっきりシラけるのではないか。批判をすればするほど、マスコミの二枚舌に注目が集まってしまう。つまり、マスコミは藤島ジュリー景子社長の独特すぎる謝罪スタイルを「セーフ」として通してしまったことで、日本の企業危機管理のルールを思いっきりゆがめてしまったのだ。