会社も個人も「過去と未来をつなぐ今」という意識を持つ

佐宗 僕が長期ビジョンのストーリー化を支援させていただいたオムロンさんでは、そういった対話が活発ですね。役員会議の場が、自分たちの存在意義を闊達に語り合う会になっているそうですよ。とても重要だなと感じますね。

入山 世界的に、トップの仕事は語り部で、みんなの議論をファシリテートすることに変わってきていますよね。SONY前社長の平井一夫さんは、理念を「感動(KANDO)」と定めた際、とにかくKANDOと言い続けたそうです。ご飯を食べてもKANDO、風呂に入ってもKANDO、扉を開けてもKANDO、朝起きてもKANDOと、そのぐらいの勢いで言っていたとご本人に聞きました(笑)。マイクロソフトのサティア・ナデラもそうですよね。基調講演の中に物語を組み込むなど、非常にナラティブなトップです。

佐宗 ミッション、ビジョン、バリュー、パーパスというと、何かかっこいい言葉を作るようなイメージを持たれますが、会社の歴史(ヒストリー)、組織文化(カルチャー)、それらを語ること(ナラティブ)全部が必要です。

 とくに大事なのが、ナラティブによる腹落ち、つまりいわゆるセンスメイキングですね。『理念経営2.0』のなかでセンスメイキングを実践する際の方法として一人ひとりが「自分はどこから来て、どこに向かおうとして、だから自分は今からこういうことをするんだ」と意識して語ることがいいのではないかと提案したのですが、入山先生はこれに関してどう思われましたか?

入山 とても良いと思いました。僕がいろんな会社からビジョンやミッション、事業継承などの相談を受けるときに必ず話すのが、「バトンタッチの感覚を持て」ということなんです。我々がやっているのはバトンタッチなんだ、と。我々が作りたい3、40年先の未来がある。一方で会社には祖業があるのだから、それが分断されることはあり得ないのです。そして、自分たちが死ぬか引退するかして若い世代が会社を引き継ぐ未来もあります。真ん中をつなぐ役割なんですよね。

佐宗 個人のナラティブも同じですよね。ただ未来だけがあるのではなく、自分の親がどう育ててくれたか、どう生きてきたかという過去と、自分の目指す未来が自然につながると、オーセンティシティーが出てくるように思います。

入山 小学校のときには将来の夢を書いたけれど、中高生になると偏差値や受験ばかりが重要になってしまって、将来の夢を考えなくなってしまった人は多いと思います。そういう仕組みを我々が作ってきてしまったために、日本は理念を持つことに対して個人も会社も弱いんです。しかし、今後はそういう世界ではない。『経営理念2.0』には、理念を持ち、それを使っていくことが書かれています。多くの人に読んでほしいですね。

「経営者の孤独」を解消すれば、会社はもっとうまくいく

(第2回に続く)