実は今回構築したインフラ自体は、AI活用の基盤として昨年から準備を進めていた。そこにタイミング良くAzure OpenAI Serviceが現れた形だ。だが、デジタル戦略部の百合祐樹さんは、「短期間でリリースできた理由はそれだけではない」と言う。

「私たちは以前から、AWSに伴走してもらいながらクラウドインフラの設計・構築に関するスキルを習得してきました。短期間でリリースできたのは、大部分を自分たちで形にし、足りない部分、今回の場合は第三者視点でのレビューをAWSにお願いするという役割分担ができたからだと思います」(百合さん)

 ここに、企業が内製化を進めていくためのヒントもありそうだ。

LION AI Chatの利用者・利用回数を
増やすための3つの施策

 次なる目標は、LION AI Chatの利用者・利用回数を増やすことだ。5月22日にグループの国内従業員約5000人に向けて公開して以来、3週間で6000アクセスと順調な滑り出しだが、まだまだ伸び代はある。デジタル戦略部は今、大きく三つの施策に取り組んでいる。

【その1:社内コミュニティの醸成】

 一つ目は、社内コミュニティの醸成だ。まずは、LION AI Chatリリース前月に初の「活用アイデア創出ワークショップ」を開催。約30人が膝を突き合わせ、60を超える活用アイデアが生まれた。デジタル戦略部では、今後もこうしたワークショップを通し、従業員の関心を高めていきたいという。

 また、社内のMicrosoft Teams(以下、Teams)にLION AI Chatチャンネルを設置した。ここで活用術やおすすめのプロンプト(LION AI Chatに入力する指示や質問のこと)を共有し合うことで、「私もまねして使ってみよう」を増やしていく考えだ。同チャンネルには、取材時点で約120人が参加しているが、メンバーは日々右肩上がりに増えているという。

 ここで、面白い気付きがあった。

「Teamsでは、はじめ『プロンプト共有』というチャンネルを設け、そこで皆さんにおすすめのプロンプトを紹介してもらおうとしました。でも、あまり投稿されませんでした。ところが『プロンプト共有』を『やってみた』に変えた途端、投稿が増えたんです。専門用語を誰にとっても馴染む言葉に翻訳することが大事だと思いました」(大吉さん)

 ただ、業務もITリテラシーもバラバラな従業員ひとりひとりが、そう簡単に活用アイデアを思いつき、実践できるものだろうか。デジタル戦略部 戦略企画グループマネジャーの黒川博史さんは、「その質問はきっとすぐに愚問になるはず」と期待を込める。

ライオン デジタル戦略部 戦略企画グループマネジャー 黒川博史さんライオン デジタル戦略部 戦略企画グループマネジャー 黒川博史さん Photo by M.S.

「Yahoo!やGoogleで検索できるようになった当初は、画期的だけど、多くの人はどう検索していいか分からなかった。それが今や“ググる”が動詞になるくらい浸透しています。ChatGPTも、近い将来そんな状態になると思うんです。そこにいかに早く到達するかだけの話。大切なことは、『あなたの課題は、こういう使い方をしたら解決できそうですよね』と、それぞれの業務に寄り添って、一つでもいいから気づいてもらうこと。そうすることで、今までになかった神経回路ができる。それが一つ、また一つとつながっていけば、いつの間にか対話型生成AIを使いこなせるようになっているはずです」