一見良さそうなたばこ増税が
はらんでいる問題
岸田首相は1本当たり3円相当の引き上げを段階的に実施すると明言しているが、一方、その増税の時期については2024年以降の適切な時期とされている。たばこ増税は喫煙による健康被害などの観点から、所得税や法人税よりも税率引き上げの大義名分が得やすい。そのため、同税は安易な増税対象となり続けている。
ただし、現在たばこ税収は約2兆円前後で推移しているものの、増税によって税収が大幅に増加するかというと疑問だ。政府は2000億~3000億円程度の税収増を見込んでいるが、需要減などを見込むと机上の空論となる可能性が高い。すると、思ったよりも税収も伸びない中で、無意味な増税が行われるだけの結果になることもあり得る。
まして、厚生労働省によると、たばこ消費者は相対的に所得が低い層が多いと報告されている。したがって、たばこ増税は逆進性が高い低所得者増税であるといえよう。いきなりたばこ増税をしたところで、それらの人々全員が禁煙にかじを切れる自制心を持っているはずがない。防衛費増額のために低所得層に増税を強いることの是非について、今一度議論を真剣に行うことが望まれる。
加熱式たばこ増税は
最悪の選択肢
特に次回のたばこ税増税は、加熱式たばこに対する増税が予測されている。しかし、加熱式たばこに対する増税は、通常のたばこ増税を上回る最悪の選択肢だ。
加熱式たばこは紙巻きたばこよりも有害性が少ない可能性が指摘されている。イギリスの公衆衛生局の報告書(2018年)によると、「加熱式たばこはベストの選択肢ではないものの、可燃性たばこよりも少ない毒素が含まれている」とされている。また研究者たちは、「新しいたばこ製品の導入は、たばこ製品の市場を大きく変えている」と強調しており、今後技術革新が継続することで人体に対する害が減少することもあり得る。
もちろん、人体に対する影響は長期的な研究が必要であるため、現段階では確かなことは明言できないが、少しでも技術革新で被害を減らせる余地があるなら、我々はできる限りの努力をするべきであろう。
また、たばこが原因とされる火災の経済損失は厚生労働省が実施した「受動喫煙防止等のたばこ対策の推進に関する研究」で約975億円と試算されている。一方、消防庁が取りまとめた「加熱式たばこ等の安全対策検討会報告書」では加熱式たばこは紙巻きたばこよりも寝たばこの被害が少ないとされている。加熱式たばこの普及は消防政策を担う地方自治体の負担軽減にもつながる一挙両得の商品だといえるだろう。
以上のように、加熱式たばこは紙巻きたばこよりもさまざまな面で望ましいものと思う。そして、人々が有害性の低い商品を選択するよう政策誘導することを「ハームリダクション」政策という。加熱式たばこに対する増税は、ハームリダクションの考え方に反するものであり、社会的問題に対する善後策を自ら捨てる愚かな行為である。