「自分はダメだ」「食べたら太る」etc.
心の中の「ゾワゾワちゃん」を外に出してあげる

── 先ほどの学校不適応もそうですが、不安や恐怖がその子の中にありますよね。

 そういったものが自分の中だけにあると思うと、「自分は弱くて臆病な、ダメ人間だ」と、どんどん自分を追い込んでしまいます。森野先生が監修をされた絵本、『かいじゅうたちはこうやってピンチをのりきった かいじゅうとドクターと取り組む1 不安・こわい気持ち』(作・新井洋行 監修・森野百合子 パイ・インターナショナル)では、不安や恐怖に「ゾワゾワちゃん」という客体を与えることで、いったん自分から切り離して、不安や恐怖を俯瞰して見る方法を提案していますね。

『かいじゅうたちはこうやってピンチをのりきった』28~29ページより『かいじゅうたちはこうやってピンチをのりきった』28~29ページより
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森野 はいそうです。この目的は問題を外在化させることです。自分を支配しているものを外から見ることのできる、もうひとつの視点を手に入れる。自分が臆病なのではなく、臆病モンスターのゾワゾワちゃんがくっついて、いろいろ訴えかけてくる。このままでは大変だから、どうしたらゾワゾワちゃんが落ち着くか、みんなで一緒に考えようというアプローチです。

──恐怖や不安が発生する原因を「ゾワゾワちゃん」にすることで、いったん自分から切り離すことができるんですね。

森野 これは摂食障害でも同じです。親は心配だから食べさせたいけれど、子どもは太るからと言って食べない。そうすると両者の感情的な軋轢は深まってしまいます。でも、実際は食べさせないように見張っているのはモンスターで、子どもはずっと「太るよ、太るよ」と脅かされて苦しんでいる。悪いのは本人ではない。こうして問題を外在化することで、気持ちの整備をして、家族が共同でモンスターに立ち向かう作戦を立てられるようにするんです。

聞いてあげることで
子どもの言語化能力が育つ

── 絵本の中の「こわがりやさんのためのノート」で先生は、不安や恐怖の正体であるゾワゾワちゃんは、毎日を安全に過ごせるよう、あなたを守ってくれる大切な感情と書かれています。

『かいじゅうたちはこうやってピンチをのりきった』34~35ページより『かいじゅうたちはこうやってピンチをのりきった』34~35ページより
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森野 不安や恐怖は、ネガティブにとらえられがちですが、実は生きていく上でとても大事な感情です。これがないと、人はけがをしたり、最悪の場合命を落としてしまいます。不安感や恐怖心がなければ、毎日楽しく暮らせると思うかもしれませんが、実はゾワゾワちゃんがいないことの方が危険なのです。不安で足がすくんだり、恐怖が大きくなりすぎるのは、あなたの命を守るための防衛本能が発動している状態ともいえます。そういう時は、不安感や恐怖心を恥じて、打ち克とうとするのではなく、自分を守ろうとしてくれている存在なんだと受け入れて、味方につける。ゾワゾワちゃんが不安に感じていることに耳を傾け、時には信頼できる大人も交えて、一緒に話し合うことで、より自分らしく生きていける道がひらけていくと思います。

子どもが言葉にするまで、親は待つ。
ネガティブな気持ちを表現する機会を阻まない

── 一見負に思える感情と向き合い、それを把握して言語化できると、暴力やパニックで、自分やまわりを傷つけることが減るかもしれませんね。私(インタビュアー)は男の子の母なんですが、子どもが転ぶと、「強い強い、泣かない」などと咄嗟に言いがちです。こういうことの積み重ねが、弱音を吐くのは恥ずかしいとか、臆病はかっこ悪いという刷り込みになり、子どもが感情を言語化する大事な機会を無意識のうちに奪っているかもしれないなと思いました。「ぼくは、これをこわいと思った。いやだった」と表現しようとしている時に、先走って助け舟を出したり、遮ったりせず、聞いてあげることで、負の感情とのつきあい方を、子どもが自分主体で学んでいけるといいなと思いました。

森野 それはめちゃくちゃ大事なことです。子どもの表現を阻んでいくと、行動で示すようになってしまう。子どもの言葉による表現って、聞いてもらわないと育っていかないんです。まわりが耳を傾け、受容することで、もやもやした気持ちに「悲しかった、いやだった」とラベルをつける。それに相手が反応して、コミュニケーションの力を育んでいく。自分の感情を相手に伝えて、言葉で表現できるようになるのがゴールです。このやりとりが親子の間で自然にできれば、子どもは自分でどんどん成長していけます。