海底はどのような様子なのか?
水圧に関しては、10メートル潜るごとに1気圧ずつ高くなっていきます。空気に触れている海面には既に1気圧かかっているので、10メートルで2気圧、20メートルで3気圧…となり、深度1万メートルだと1001気圧という計算になります。ちなみに1気圧は「1平方センチメートルあたり1キログラム」の圧力になります。なので1001気圧となると…単純に1平方センチメートルあたり、約1トンの負荷がかかるわけです。角砂糖のような面積に乗用車の重量ほどの力がかかり、それも四方八方からギュウギュウに圧迫されるわけです。「砕けてバラバラになる」というよりも、「分解され粉みじんになる」と言ったほうがいいでしょう。
これで想像できたでしょうか?海面の約1101倍となる水深1万1000メートルの世界観を。そればかりでなく水温は氷点下ほどになり、しかも太陽の光も届かない…真っ暗闇の世界です。そう聞けば、「冷たく静かな宇宙の果てと同様だ」と思うかもしれません(宇宙の果ても、「冷たく静かと」いう証明はございませんが…)。
ですが、そうではないようです。実は海の最深部は、「実に騒がしい場所」である可能性も高まっています(宇宙の果てもそうかもしれませんが…)。それは2015年に、アメリカ海洋大気庁・アメリカ沿岸警備隊・オレゴン州立大学の研究者からなるチームによって、ハイドロフォン(防水マイク)をチャレンジャー海淵に約6時間かけて投下するといった研究でのこと。すると、その機器の記録媒体の容量は23日間でいっぱいになったということ。その録音を解析した結果、地震や台風などの自然現象やクジラの鳴き声、船のエンジン音などの人工的な音などが記録されていたことが2016年に発表されました。
人類は海の最深部を
探検したことがあるのか?
1872年から1876年にかけて、イギリスの海洋調査船「HMSチャレンジャー(HMS Challenger)」号は測鉛線(鉛の重りの付いた目盛りのあるロープ)を使って、海底の測量をしていました。すると1875年3月、予測できない風の影響で船が予定したコースから外れてしまったところ、偶然にもそこで8184メートルの測深を記録します。その測量地点は北緯11度24分 東経143度16分と記録されおり、その後、その付近が海の最深部であると調査が続くようになります。やがてその付近を、最初に発見した「HMSチャレンジャー」号にちなんで「チャレンジャー海淵」と名づけられます。
それから75年以上経ち、1951年6月に「チャレンジャー8世」号が(当時)より正確で簡単な海底地図を作成する方法である音波による音響測深を使って、この場所の付近(北緯11度19分 東経142度15分)を再調査しました。結果、水深1万863.2メートルを観測し、そこが世界で最も深い場所であることが確認されます。
そうしてチャレンジャー海淵の探検は続きますが、これまで有人潜航によってそこを訪れたダイバーたちを紹介しましょう。