まずは1960年1月のこと、ジャック・ピカールとアメリカ海軍のドン・ウォルシュ大尉が、「トリエステ」号という潜水艇でチャレンジャー海淵を探検しました。そこでマノメータ(水圧からの換算)は水深1万1521メートルを示していたが、後に1万916メートルと訂正しています。しかしながら極度の水圧のため、潜水時間はわずか20分。しかも海底の瓦礫が大量に舞っていたため、写真を撮ることができなかったということです。

「海底1万m」はどんな場所?水圧の強さ、住む生物、到達した冒険家を解説!気球の原理を応用して、浮力材にはガソリンを用いた電気推進式の「バチスカーフ(深海探査艇)」を発明したオーギュスト・ピカール(中央)が1959年7月6日に、チャレンジャー海淵探査の指揮をとるアンドレ・リヒニツァー(左)と息子で乗員とまるジャック・ピカール(右)とトリエステ号について話し合っている様子。
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 続く3人目がチャレンジャー海淵に到達するまでには、50年以上の歳月を要しました。それは2012年3月のこと。映画監督のジェームズ・キャメロンが自ら設計した深海探査艇「ディープシーチャレンジャー」号で有人潜航を成功させます。約3時間の潜水で記録された深さは1万898.4メートル、キャメロンの機材は強力な水圧によって破損。バッテリーやソナーが故障し、スラスター(船を着岸させるときに使う装置)も欠損してしまいます。

「海底1万m」はどんな場所?水圧の強さ、住む生物、到達した冒険家を解説!2013年6月1日、カリフォルニア・サイエンス・センターで「ディープシー・チャレンジャー」号を紹介するジェームズ・キャメロン。
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 直近では、冒険家ヴィクター・ヴェスコヴォによって2018年12月にスタートした(5大洋の最深部を探査する)「ファイヴディープス」の中で成功させています。ヴェスコヴォは自身の潜水艇「リミティング・ファクター(Limiting Factor)」号に乗り、2018年12月19日に大西洋・プエルトリコ海溝で水深8376メートルに到達し、2019年2月3日には南極海のサウスサンドウィッチ海溝で水深7433メートルに。さらに2019年4月5日にインド洋のジャワ海溝で水深7192メートルに達した後の同年同月28日に、マリアナ海溝チャレンジャー海淵で1万925メートルに到達することに成功。ここで新たな記録を樹立します。それ以降も、ヴェスコヴォは乗員数2名の「リミティング・ファクター」号で、チャレンジャー海淵に数多くの人を探査に送り出しました。ちなみにヴェスコヴォ自身は、計8回もチャレンジャー海淵を探索しています。

 ヴェスコヴォはライブでの撮影も見事成功させていて、そこには海底にビニール製のゴミらしきものや深海生物の姿も映し出されています。

 この他にも、これまでに数多くの無人探査船がマリアナ海溝やチャレンジャー海淵を探査し、世界の最深部に関する知識は増えつつありますが、まだわかっていないことも多いのが現状です。

海底には
どんな生物が生息しているのか?

 チャレンジャー海淵の海底の水圧は非常に高く、理論上この深さでは骨は粉々に分解されてしまうとのこと。そのため、科学者たちは魚や脊椎動物が生存できるかどうか懐疑的です。しかしながら、これまでの探査による映像、およびロボット探査機による水や海底のサンプル採取によって、虫やエビ、微生物などが発見されています。

 逆説的に言えば、チャレンジャー海淵の底には微量の生命体しか存在しません。ですがそこから再び逆説となり、「地球上の生命は、この深海で誕生したのではないか?」という発想を科学者に芽生えさせます…。マリアナ海溝に見られるような、ミネラル分の多い海水を噴出する深海の熱水噴出孔は、地球上の生命の起源に理想的な条件をもたらした可能性もあります。熱水噴出孔が引き起こした化学反応により、有機化合物が複雑化し、現在のような生命体へと進化したかもしれない…そのような研究も今後なされていくでしょう。

 最近、2023年6月には、水深約4000メートルまで潜水し沈没したタイタニック号を見学しようとしていた潜水艇「タイタン」の事故がありました。それほどまでに深海は危険な場所でもあるのです。

source / POPULAR MECHANICS
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です

Text by Ashley Stimpson

「海底1万m」はどんな場所?水圧の強さ、住む生物、到達した冒険家を解説!