給与収入だけで老後資金をまかなえるのか不安に思う人が増えている。多くの人にとって「投資」が避けて通れない時代になってきた。資産を増やすという点で大きな選択肢の1つになるのが株式投資だ。「株投資をはじめたいけど、どうしたらいいのか?」。そんな方に参考になる書籍『株の投資大全ーー成長株をどう見極め、いつ買ったらいいのか』(小泉秀希著、ひふみ株式戦略部監修)が3月15日に発刊された。「ひふみ投信」の創始者、藤野英人氏率いる投資のプロ集団「ひふみ株式戦略部」が全面監修した初の本。株で資産をつくるためには、何をどうすればいいのか? 本連載では、特別に本書から一部を抜粋・編集してその要旨をお伝えしていく。

【財務諸表を読みとくカギ】「のれん」とは、何を意味するのか?Photo: Adobe Stock

「のれん」は、企業買収で発生する調整項目

「のれん」とは、会社の買収金額から純資産を引いた金額のことです。

 たとえば、A社という会社が純資産100億円のB社の株を150億円で100%買って買収したとします。この場合、純資産を超過した50億円がのれんです。

 この50億円は、貸借対照表だけでは捉えられないB社の価値に対して付けられた値段です。

 貸借対照表だけでは捉えられない会社の価値というのは、技術力ノウハウブランド力顧客基盤、そして会社組織自体も含めて貸借対照表に載っていないあらゆる経営資源です。

 のれんの価値というのは、通常は貸借対照表に載せません。のれんは実態が捉えづらいですし、価値の算定が一筋縄ではいかず、見積もる人によって考え方や計算の仕方が異なってしまうからです。

 しかし、企業買収が行われた時には、値段がはっきりとつきますし、150億円支払っているのに100億円の資産しか得られないとなると50億円の損失が発生したことになってしまいます。そこで、150億円支払って、「100億円の純資産+50億円ののれん」を買ったという形にして財務的に処理するわけです。

のれんは、国際会計基準や米国基準では償却しないルール

 のれんの会計処理については、1つ注意点があります。

 のれんは、日本の会計基準では償却するルールになっていますが、国際会計基準や米国基準では償却しないルールになっています。日本の会計基準を採用している会社で大型の企業買収をしたケースなどは、のれん償却費が毎年計上されている可能性があります。

 たとえば、会社を買収して200億円ののれんが発生したとします。日本の会計基準では、これを20年以内に償却することになっています。毎年10億円ずつ償却していくと、毎年のれん償却費として10億円が計上されて、その分営業利益から差し引かれることになります。本来の営業利益が20億円だとして、のれん償却費が10億円計上されると、営業利益が10億円になってしまいます。

 また、純資産よりも買収金額が安いケースもあります。たとえば、純資産が100億円の会社を70億円で買収した場合、差額の30億円を負ののれんといい、取引があった年度の損益計算で利益として加算します。

 要するに、100億円の資産を70億円で買って、その差額分をその年の利益として計算するということです。正ののれん(通常ののれん)とは処理の仕方が異なるわけです。

(※本稿は『株の投資大全 成長株をどう見極め、いつ買ったらいいのか』の一部を抜粋・編集したものです)

小泉秀希(こいずみ・ひでき)
株式・金融ライター
東京大学卒業後、日興證券(現在のSMBC日興証券)などを経て、1999年より株式・金融ライターに。マネー雑誌『ダイヤモンドZAi』には創刊時から携わり、特集記事や「名投資家に学ぶ株の鉄則!」などの連載を長年担当。『たった7日で株とチャートの達人になる!』『めちゃくちゃ売れてる株の雑誌ザイが作った「株」入門』ほか、株式投資関連の書籍の執筆・編集を多数手がけ、その累計部数は100万部以上に。また、自らも個人投資家として熱心に投資に取り組んでいる。市民講座や社会人向けの株式投資講座などでの講演も多数。
ひふみ株式戦略部
投資信託ひふみシリーズのファンド運用を担うレオス・キャピタルワークスのメンバーにより構成された本書監修プロジェクトチーム。
ひふみ投信:https://hifumi.rheos.jp/