日本の宿泊施設市場が苦境に陥って以降、不動産仲介業者には中国人富裕層から「旅館を買収したい」という問い合わせが急増している。旅館のオーナーになって稼ぎたいというのは建前。本音では「不動産より欲しいものが二つある」という。特集『ホテルの新・覇者』(全18回)の#9では、この「二つ」を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 大根田康介)
旅館はお手頃価格で
中国人富裕層に人気
静岡・伊豆のある老舗旅館には今、「6億円で買収したい」という引き合いが来ている。神奈川・箱根のある高級旅館は5億円で売買契約をする予定。どちらも買い手は中国人富裕層である。
目下、不動産関係者の間で出回っているビジネスホテルの売買候補リストには、大量のホテル名が記載されている。インバウンド需要で高値につり上がった土地を仕入れて、建築費が高騰するさなかで造られたホテルが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で稼げない状況に陥っているのだ。売却希望金額は買い手にとって割高なものが多い。融資を受けた金融機関から「安値でたたき売るな」とプレッシャーをかけられたりして、簡単に損切りすらできないのだ。
一方で旅館は、昔ながらの土地にあり木造の古い建物だから、比較的手頃な価格で売買されている。後継者がいない高齢のオーナーなどは、早期に売ることが第一優先だったりする。
旅館の売買は、コロナ禍の少し前から現在に至るまで、中国人富裕層から人気だ。旅館のオーナーになれば、そこそこの利回りは期待できるし、保養施設として中国本土から客を呼べる。自分の別荘代わりにも使える。
ただ、そうした購入動機はあくまで建前だ。本音では「不動産より欲しいものが二つある」と、ある不動産仲介業者は話す。
この「二つ」とは何なのか。