旧日本軍発祥の働き方は不正の温床
「5分前行動」も軍隊発祥

 冒頭で紹介したように、兼重前社長は今回の不正はすべて「現場のトップ」である工場長が指示をしていたと考えている。現場の修理担当者が不正行為に手を染めていたというのは、工場長がしっかり指導・監督をしていなかったからであって、約6000人の従業員を擁する巨大企業の作戦指揮を統括している自分が関知するようなことではない――。だから、兼重前社長は現場の不正を「天地神明に誓って知らない」と胸を張って言える。

 というよりも、そもそも興味がないのだ。だから、ゴルフボールを靴下に入れて車体に傷をつけた報告を受けて、「ゴルフを愛する人への冒涜だ」などとピントのズレたことが「素」で言えてしまうのだ。

 さて、このような話をすると決まって「日本を守るために命をかけた人々を悪者にするな!」とか「なんでもかんでも戦争に結びつけるな、反戦左翼め!」とよくお叱りを受けるのだが、筆者が不祥事企業と日本軍を重ねるのにイデオロギー的な観点はまったくない。

 ごくシンプルに「ルーツ」が同じだからだ。

 実は、年功序列、定期異動、定時出社、上司の命令は絶対など、多くの日本人が「日本企業特有の文化」と信じていることのほとんどは、戦時体制下に軍隊の指導によって社会に定着したものである。

 当時、国民総動員体制下で、総力戦をしていた日本では、「民間企業は生産性を上げるために軍隊の優れた組織マネジメントを導入せよ」というお達しが出た。実際に軍隊から指導員がきた。彼らのもとで軍隊式の働き方改革を受けた民間人は「産業戦士」と呼ばれた。

 戦後も基本的には、同じことが繰り返されている。

 焼け野原から経済復興を経験した人のほとんどが、軍隊で復員した経験のある人や「産業戦士」なので当然、戦後のベビーブーマーたちに「軍隊式の働き方」を叩き込んだ。そうして、「産業戦士2世」となった人々が次の世代にも継承する、という感じで「軍隊式の働き方」の世代間連鎖が続いた結果が、現在の日本企業である。
 
「令和の時代に日本軍って、左翼の妄想も大概にしろ」と怒られるが、我々が知らず知らずのうちに「軍隊の常識」を「日本企業の常識」だと勘違いしている例など山ほどある。

 最も分かりやすいのが、「5分前行動」だ。日本のビジネスパーソンからすれば、午後1時に得意先とアポがあっても、12時50分には現地に到着して、55分には会議室に入っているというのが半ば常識となっている。新人が本当に午後1時ピッタリに集合場所にやって来たら、「いつまで学生気分でいるんだ」なんて注意されてしまう。

 正確で礼儀正しい日本人の美徳だが、何を隠そうこのルーツは、旧海軍で叩き込まれていた「5分前精神」という教育にある。戦闘はもちろん、訓練や術科、学校など日常生活のすべてが定刻の5分前にはすべての準備が整っていることが求められていた。

 カルチャーというものは、このような良いものだけではなく、悪いものも引き継がれていく。