4台乗り比べて
最も気に入ったのは…
今回の試乗は筆者一人乗車で行い、試乗コースは4車を比較するためほぼ同じルートで走った。
1台目は、アルファードの「Executive Lounge」のE-Four(四駆)だ。オプションなしの価格が税込み872万円の高級ミニバンである。
走り出してすぐに「これまでとは、まったく別物だ」という感想を持った。
単純に走行中に静かになったとか、走りが良くなったというのではなく、抜本的に変わったという印象だ。
言うならば、大きなミニバンから「真のショーファーカー」になったと感じる。
ショーファーカーとは、専属ドライバーがいる社用車や公用車を指す。ドイツのメルセデス・ベンツの上位セダンや英国ロールスロイスなどに対して使われる俗称だ。
近年、こうしたショーファーカーも、富裕層が自ら運転するドライバーズカーとしての価値が重要視されるようになってきており、新型アルファードもそうした領域に入った印象がある。
実際、アルファード開発関係者は「今回の開発で使った比較車両は、他社のミニバンではなく、欧州ブランドの最上級セダンだった」と漏らす。
そうした開発の方向性を、新型アルファードでまさに実感するのだ。
先代に比べて、一気に低重心になったわけではないのだが、コーナーでの動きがまるで高級セダンのようであり、ハンドル・アクセル・ブレーキの操作に対してクルマの動きが、まさに“手に取るように”分かる。だから、運転での疲れが少なく感じる。
こうした運転席での感想を試乗後に開発者に伝えると「その実感は当然だが、後席の人も同じように感じると、われわれも実験を通じて分かった」と指摘する。
また、試乗の途中、大黒パーキングエリア内で停車し、後席の各種操作系を試してみた。
最も強く印象に残ったのは、天井部に新設されたスーパーロングオーバーヘッドコンソールの存在だ。各種操作用のスイッチが配置されているが、どれもが直感的に使いやすい。
後席用のパワーサイドサンシェードは上から降りる珍しいタイプで、これとパワーウインドーの開閉がうまく連動する仕組みは、利用者の気持ちに寄り添った設計思想だと思う。
そして、何より大幅改良されてリラックス度が増したシートが実に心地良い。3列目の居住性も先代モデルと比べてかなり上がったと感じる。
次いで「ヴェルファイア」のExecutive Lounge E-Four(892万円)に乗った。
従来、アルファードとヴェルファイアとの違いは、外装の意匠だけだったが、今回から
ヴェルファイアのブランド価値をさらに高めるため、走りの味付けを変えた。
具体的にはフロントボディに、フロントパフォーマンスブレースと呼ぶ補強材を加えて、ハンドルの初期応答性を上げた。また、周波数感応型ショックアブソーバーで“伸び側”の減衰力を若干強め、さらに電動パワーステアリングのセッティングに変更を施している。
試乗した感想は、コーナーリング初期にクルマ全体がイン側に回り込む少しスポーティーな走りをするということだ。19インチタイヤ装着だが、路面からゴツゴツしたフィードバックはなく、クルマ全体が引き締まった感じがある。
ヴェルファイアを選択するユーザーを意識したセッティングであることが、しっかり分かる走りの味付けだ。.
3台目は、ヴェルファイアの「Z-Premier」(655万円)だ。アルファードには設定のない2.4リッターターボエンジン「T24A-FTS」搭載の二輪駆動(FF)車である。
試乗前に筆者が予想した通り、四駆ハイブリッド車に比べた重量減を、運転者としてクルマの軽快さとして感じる。クルマ全体の動きとしては、前の2台よりコーナーでのロールが残る印象が少しあるが、動き全体としては取り回しやすい。
そして4台目は、アルファードのZ(642万円)に乗った。1台目のExecutive Loungeとはタイヤサイズが違い、周波数感応型ショックアブソーバーは採用していない。また内装などでも違いがある。
こうして4台を乗り比べて、全体としては「アルファードとヴェルファイアの違い」がよく理解できた。
また、部分的には「フロントパフォーマンスブレース+ショックアブソーバーとパワーステアリングによる違い」「周波数感応型ショックアブソーバーによる違い」「タイヤサイズでの違い」、そして「後席シートなど内装の違い」を体感し、それらの開発の意図について各分野の開発担当者と詳しく意見交換することができた。
今回の試乗のまとめとして、筆者の私見としては1台目に乗った、アルファードExecutive Lounge E-Fourが、上級グレードであることもあるが「最もショーファーカーらしい」と思う。
つまり、先代との「別物化」の度合いを最も強く感じた。
ただし、今回乗った4台のどれもで、「アルファード(またはヴェルファイア)に乗っているという気がしない」と感じるほど、先代までのアルファード・ヴェルファイアに対する固定概念を覆す「全く新しい走行感や内外装の質感」であったことに違いはない。