世界中から弟子入り、盆栽に魅了されるジャック・マー氏
小林氏は日本を代表する盆栽作家だ。
盆栽は「時間の芸術」とも言われ、時間がたつほど味がでてくるという魅力がある。鬼才で知られる小林氏の盆栽は高値で取引され1億円の値がつくものもある。
園芸農家をやっていた父親の背中を見てこの世界に入ったが、小林氏は園芸ではなく盆栽を志し、携わって50年になる。30年目に10億円の私財を投じて数寄屋建築の美術館を立ち上げた。実に“はさみ一丁”のなせる業である。
美術館は年間5万人が来館し、約8割が外国人だという。世界的著名人も少なくなく、米・アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏やアリババ創業者のジャック・マー氏がここを訪れている。館長の神康文さん(35歳)によると「ジャック・マー氏は盆栽好きで、ここで1000万円のさつきを購入されました」という。
これまでに30の国と地域から130人が小林氏の下で修業した。現在はポーランド、プエルトリコ、中国、台湾から来た外国人5人と日本人1人が親方と寝食を共にし、寸暇を惜しんで技能習得に没頭している。共通語は英語だが、親方は弟子たちに「目で盗め」と指導する。
盆栽のルーツは中国、現代はお抱え職人も
実は盆栽は日本人より外国人に人気あり、むしろ海外で高く評価されている。盆栽のルーツは中国にあり、唐の時代に始まったといわれる「盆景」が、平安時代に日本に伝わってきたといわれる。
中国からもたらされた盆景は、日本人の感性とともに長い年月を経て「盆栽文化」として成熟した。近年は中国でも盆景文化が復活し独自の発展を遂げているが、「のびやかで豪快な中国の盆景に触れ、私自身の作風も変わりました」と語るように、小林氏にも大きな影響をもたらしている。
日本の盆栽について小林氏は「盆栽は個性、調和、品性、らしさの四要素が不可欠。個性は必要だが強すぎてはだめ、そこで調和が必要となり、品性が加わることで美しい作品になり、季節や植物が持つ『らしさ』を供えて完成された美となります」と話す。
そんな盆栽への関心はとりわけ中国で高まっている。
日本でも盆栽に対して “余裕ある金持ちのたしなみ”というイメージもあるが、中国では、広大な家や庭を持つ富裕層が、盆栽に資金を投じそれをステータスにしているところがある。こうした中国の富裕層にはお抱えの職人がいるという。
「中国でも高価な盆栽を買っても枯らせてしまった人は少なくありません。その反省から“いい職人”を雇うようになりました。日本で修業した職人は引く手あまたで、私のところで修了証をもらうと中国での給料は倍に跳ね上がるようです」(小林氏)
日本にしかない「精神の内面からただよう品位」「枯らさないで長生きさせる技術」、この二つは今なお高い需要がある。
近年はトレンドに乗じて “盆栽ブローカー”も出現するようになった。オークションで高値を動かすのは専ら中国人だという。
「日本国内のどこのオークション会場にも中国人がたいてい5~6人はいます。日本人のみだと300万円程度ですが、中国人がいると総売り上げが5000万円になる、このくらい経済力には差があるんです」(小林氏)
小林氏によると「経済成長があるところは盆栽も伸びる」と言う。確かに日本では昭和の高度経済成長期に盆栽を求める家庭が少なくなかった。今では中国やベトナム、フィリピンなど東南アジアで盆栽熱の高まりがある。「これからはインドだ」と小林氏は言う。