2022年、安倍元首相銃撃事件をきっかけに旧統一教会問題がクローズアップされ、「宗教2世」をめぐる悲惨な現実が明るみになった。親からの虐待、過度な献金による貧困、ネグレクトといった問題解決は緒についたばかりだ。本連載では『宗教2世サバイバルガイド』の著者である正木伸城氏が、「宗教2世」と関わりの深い有識者・当事者などに取材し、今後の宗教2世問題を議論する。第2回は、漫画家・菊池真理子さんだ。

葬式の場で亡くなった信者に賞状!? 宗教2世の心を逆なでしたある新興宗教の衝撃の行動Photo:AdobeStock

菊池さんが宗教2世問題を
著作で世に問おうと思ったきっかけ

――菊池さんの著作『「神様」のいる家で育ちました』(文藝春秋)は多くの人に読まれています。さまざまな教団の宗教2世を扱ったオムニバス形式の本としては日本で初めて出た書籍と言えるのではないでしょうか。

菊池 真理子(以下、菊池) そのように言っていただいていますね。ただ実は、私自身は自分が宗教2世だという自覚を持ったのが遅かったんです。私の父はアルコール依存症で、そのもとで育ったアダルトチルドレンとして、私はカウンセリングを受けていました。その過程で「自分の中に宗教の教えが残っている」ということがわかってきて。最終的には「(私たちが所属していた)創価学会の教えの中で育てられたから、自分はこういう人間なんだ」と腑に落ちたというか、そういう理解に落ち着きました。ほんの数年前のことです。

葬式の場で亡くなった信者に賞状!? 宗教2世の心を逆なでしたある新興宗教の衝撃の行動菊池 真理子
漫画家
埼玉県生まれ。7人の宗教2世たちが育ってきた家での出来事をマンガ化した作品『「神様」のいる家で育ちました〜宗教2世な私たち〜』が話題に。新連載『人生ちょっと休んだら〜あちこち逃げる車中泊〜』も好評掲載中。

――宗教2世のことを著作で世に問おうと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

菊池 自分の中に宗教の問題があるとわかってから、「他の宗教2世はどんな気持ちでいるんだろう?」と気になるようになったんです。そんな中で、エホバの証人2世のiidabii(イーダビー)さんのライブに行く機会がありました。そこで、宗教2世の気持ちを歌った彼の歌に驚かされて……。イーダビーさんが体罰を受けていた、その壮絶さにも驚いたのですが、それ以上に「あ、私も同じ気持ちだ!」という気づきがあったのです。

 イーダビーさんの歌の中に、「宗教活動はすごく嫌だったんだけれども、お母さんがこぐ自転車の後ろに乗せられて見上げた星空がきれいだった」みたいな表現があります。つらい記憶の中にもきらりと光る星みたいな記憶があるんだと、彼はそう言うわけです。嫌な思い出と良い思い出は切り離せない。その感覚がとてもよくわかる気がして、「いろいろな宗教2世の話を聞いてみたい」という私の思いに火がつきました。

――確かに、自身の出自や過去を呪う宗教2世はいますが、すべての思い出が否定すべきものになるかというと、そうではないんですよね。

菊池 だからこそ苦しむこともあります。宗教2世として、親や環境を否定しきれない。それで気持ちが揺れている宗教2世もたくさんいます。

さまざまな宗教の2世たちに
共通する苦しみとは?

――宗教2世の苦しみを一般化するのは難しいし、乱暴だとも思うのですが、その上で宗教2世の苦しさに「共通する」と感じられる点はあったりしますか?

菊池 まず、旧統一教会やエホバの証人といった宗教は、そもそも、教えに問題があると私は感じているので、解散してほしいと思っています。その上で、カルト性が低い宗教や伝統宗教の2世も含めて共通して「ある」と感じられるのは、「自分で選んだ人生じゃない」という気持ちですよね。「もし自分が宗教のない家に生まれていたら、こういう生き方をしていなかったのに」というところが通奏低音として響いていると思います。

――そういった実情を伝えるために『「神様」のいる家で育ちました』を書かれたのだと思います。菊池さんの人生も壮絶です。菊池さんのお母さまは自死されていますね。思い出すのもつらい経験だったのではないでしょうか。

菊池 そこに踏ん切りがついたからこそ、あの本が書けたところもあります。私から見れば、母は宗教で救われているようには見えませんでした。自死する前の数年間は、母の涙ばかり見てきました。いつも、いつも、ほんとうにいつも泣いていた。その上で、創価学会に対する違和感みたいなものを、一連の葬儀の中で感じたことを覚えています。

――違和感、といいますと?

菊池 葬式には、多くの創価学会員も来ていました。その中で、死後に信者がもらえるという賞状みたいなものを渡されたんです。それを、喪主である父がうやうやしく受け取った。私も父も、創価学会が原因で母が泣いているところを見ていましたから、複雑な気持ちになりました。「母は創価学会のせいで苦しんできたのに、こんなものをもらって何になるの? 救ってくれなかったこの宗教って、一体何?」って。

 創価学会を嫌っていた父は、日頃、学会員が家に来たらすぐに追い返すような人だったんです。けれど、その時ばかりは「ふざけるな!」と怒るわけにもいかない。創価学会のものを、父が神妙な面持ちで受け取った時に「これって、何の茶番なの!?」と私は思いました。父もつらかったはずです。

――遺族の気持ちを、その賞状が逆なでするかたちになっていたのですね。

教団ごとに、また宗派を超えて
語り合える場を作りたい

――菊池さんはいま、創価学会についてどう思われていますか。

菊池 何も思うことはありません。当然ですけど、信じている人を傷つける意図も持っているわけではないし、信じたい人は信じていていいと思うんです。信じていない人でも、教団に所属だけしている、というスタンスを取ったっていい。正木さんの著書『宗教2世サバイバルガイド』に、正木さんが「創価学会を退会しないワケ」について書かれていましたよね。その理由が、「やめるメリットが何もない」だったでしょう。これ、ほんとうにそうだなって思いました。

 ただ、教団や公明党のあり方にはちょっとよろしくない面がありますよね。戦争につながりかねない法案を公明党が推進したりとか、昔なら考えられなかったことが起こっている。でも、もし母が生きていたら、そんな公明党を、何の疑いもせずに支援すると思うんです。その状況って、思考停止というか、ほんとうに良くないなって思います。

――最後に、これから菊池さんがどのように宗教2世と関わっていこうと考えられているかについて教えてください。

菊池 『「神様」のいる家で育ちました』もそうですし、正木さんの『宗教2世サバイバルガイド』もそうですが、読むと、「ああ、一人じゃないんだ」って宗教2世が思えますよね。そうやって、気持ち的に孤立しないことが大事で、そのために自分の周囲にいる人から声をかけていきたいですね。エホバならエホバで、創価なら創価で、宗教2世がわーっと話し合うだけでも、心のケアになったりするんです。

――共感します。まさに、そういうことがあります。

菊池 あとは少しずつでいいので、(宗教・宗派限らず)いろんな宗教2世と触れ合う中で、自分の体験の「変わっている点」を宗教2世に知ってほしいと思います。他の宗教2世の「普通ではない、変わった話」を聞いていると、「あ、私のあの体験も、相当に変わったものだったんだ!」って気づけるんです。それがないと、宗教の体験は本人的に「当たり前すぎる」ことなので、その「おかしさ」に気づけなかったりする。下手をすると、虐待を受けているのに「それが虐待だと気づけない」なんてことも起こり得ます。

 自己認識を正しくして宗教2世としての自分の体験を客観的に見られるようになれば、その見方そのものが宗教2世問題の議論を豊かにします。ここも、大切にしてほしいです。もちろん、一番は自分自身を大切にすることですが――。

――教団にも、宗教2世問題に真摯に向き合ってもらいたいですね。

菊池 それこそ正木さんの本『宗教2世サバイバルガイド』には、教団をアップデートするために役立つヒントがたくさん書かれているじゃないですか。また、現役信者にとっても「ためになる」話がたくさんある。こういう意見にこそ、創価学会は耳を傾けるべきです。現役信者に、ぜひ読んでほしい。教団も、宗教2世問題を「各家庭の問題です」と言って居直るのではなく、問題が存在することを認めて、改善に着手してほしいです。