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米アマゾンが展開する「Amazon Go」。2018年1月、シアトルに1号店をオープン、レジなしで買い物ができると話題になりました。本稿では、アマゾンが追及する新たな顧客体験と、今後の展開について解説します。

小売業界におけるマーケティングの重要課題

「OMO(Online Merges with Offline)」。特に小売業界でマーケティングに携わっている方なら、この言葉を聞いたことがない方はいないでしょう。

 直訳すると「オンラインとオフラインの融合」ですが、人によって「融合」のとらえ方はさまざまで、具体的にどう融合し、どんな顧客体験をもたらすのか、わかりにくいところがあります。本題に入る前に、いま一度確認しておきましょう。

 OMOという言葉は、2017年に元グーグルチャイナのCEOで、現在はシノベーションベンチャーズを率いる李開復(リ・カイフ)氏が提唱した言葉です。同年12月の『エコノミスト』誌に発表されたことで世界中に広まりました。

 李氏によると、OMOとは「消費者は常時オンラインに接続され、オンラインとオフラインの境界があいまいになり、両者が融合していく」というコンセプトを指します。

 それまでのO2O(Online to Offline)がオンラインからオフラインへの一方通行の送客を表しているのに対し、OMOではもはやオンラインとオフラインの境界があいまいになり、双方を行き来しながら新しい消費体験を生み出すという意味を持っています。

 たんなる販売促進ではなくカスタマーエクスペリエンス(CX)に重心が置かれているのがポイントです。

 とりわけ食品、アパレルなどリアル店舗を持つ小売業界においては、OMOによる新しい顧客体験をいかに生み出すかが、デジタル時代のマーケティング施策における重要課題となっています。

 その一例として、オンラインでの接客、飲食店でのモバイルオーダー、ECとリアル店舗の在庫管理の一元化といった施策が一部の企業で実施されています。

 ただ、多くの日本企業におけるOMO施策は自社内で完結しており、オンラインは自社ECサイトもしくは専用のスマートフォンアプリ、オフラインは自社店舗と、タッチポイントは限定されている印象があります。アプリで買うか、店舗で買うかの二択しかないイメージです。

「当たり前じゃないか。それ以外に何があるんだ?」と思われるかもしれません。しかし、海外の最新テック企業にとって、そんな「当たり前」はもはや「当たり前」ではありません。日本のOMOを凌駕する、いわばスーパーOMOを実現しているのです。

「無数のタッチポイント」と「顧客データの統一」で新たな顧客体験を創造

 スーパーOMOと日本のOMOの大きく異なる点は、主に2つあります。ひとつはオンライン・オフライン双方における「タッチポイント」の数です。

 躍進が目立つのは、いわずと知れた「ECの巨人」アマゾンです。レジをとおさずに買い物ができる「Amazon Go」をはじめ、リアル店舗を次々と展開。大手スーパーマーケットも買収しながら、オフラインでのタッチポイントを増やしています。

 加えて、ここでも中国テック企業の台頭が目立ちます。オンラインではライブコマース、メタバース、アプリ、SNS。オフラインでは店舗、自動販売機、宅配ボックス、タクシー、ホテルと、双方において多種多様なタッチポイントを設けており、その組み合わせは無数に存在します。

 そもそも、中国ではオフラインとオンラインが日常生活に完全に溶け込んでおり、消費者も意識すらしていません。もはやOMOという言葉も使わないほどです。

 とりわけ街中で目立つのは、「自動棚」と呼ばれる小型の自動販売機。その自動棚のQRコードをスマートフォンで読み込めば、ほしいものをその場ですぐ購入することができます。

 導入コストが1万円前後からと安く、法人だけでなく個人も気軽に副業として設置運営し、さまざまなものを販売しています。スマートフォンによるアナリティクスが直感的でわかりやすく、収益や売上をリアルタイムで確認できます。

 スーパーOMOのもうひとつの特徴は、オフライン・オンライン双方での顧客IDが統一されており、顧客データが完全に同期されていることです。そのため、顧客一人ひとりの消費趣向や購買行動の解像度を高め、よりパーソナライズされた顧客体験を実現することができます。

 これらの「無数のタッチポイント」と「オンライン・オフラインにおける顧客データの同期」によって、顧客一人ひとりの行動特性を浮かび上がらせ、これまでとはまったく異なる顧客体験を生み出しているのが、これらの最新テック企業が実践する「スーパーOMO」です。

 本稿では、その「スーパーOMO」の顧客体験を生み出しているアマゾンの事例を取り上げます。

「レジなし」で買い物体験ができる「Amazon Go」

 多くのメディアが常にその一挙手一投足に注目する「ECの巨人」アマゾン。OMOの最新事例を語る上でも、王道ではありますが、そのアマゾンが展開するリアル店舗戦略に触れないわけにはいきません。

「あのアマゾンがリアル店舗に進出するらしい」─2016年12月、世界の小売業界に激震が走りました。アマゾンが、レジのないコンビニエンスストア「Amazon Go」の運用を開始すると発表したのです。

 試験運用期間を経て、2018年1月、シアトルにAmazon Goの第1号店がオープン。以降、アップデートを繰り返しながら、このAmazon Goをアメリカだけで27店舗まで拡大しています(2022年9月現在)。

 Amazon Goの仕組みを説明しておくと、まず利用にあたってはアマゾンのアカウントを発行し、Amazon Goのアプリをスマートフォンに入れておきます。そして、入店時にこのアプリでQRコードを表示すると、入場ゲートのセンサーが読み取り、個人認証されて入店することができます。

 店内には、スーパーやコンビニにあるはずの「レジ」がありません。顧客はピックアップした商品を袋に詰め、そのままゲートを通過するだけで自動的に決済が完了します。

 これが、アマゾン独自のシステム「ジャスト・ウォーク・アウト」です。つまり、レジで買った商品をスキャンする必要がなく、そのままゲートを出るだけで買い物が済んでしまいます。そして、Amazon Goのアプリには購入した商品の履歴が記録されます。

 この「ジャスト・ウォーク・アウト」を可能にしているのが、店内の天井などに内蔵されたAIカメラと重量センサー。顧客がどの商品をピックアップしたかを正確に解析するので、商品を持ったままゲートを出ることができるのです。

 ちなみに誤解を招きやすいのですが、このAmazon Goは「無人店舗」というカテゴリーでよく語られています。ところが、実際に行ってみると店内には複数のスタッフが常駐しており、買い物をサポートしてくれます。「レジなし店舗(またはウォークスルー店舗)」といったほうがより正確でしょう。