新しくリーダーに抜擢されたはいいものの、チーム全員、やる気がない!
このまま管理職が務まるのだろうか?
そんな職場のストレスを感じている人にぜひ読んでもらいたいのが、『時間最短化、成果最大化の法則──1日1話インストールする“できる人”の思考アルゴリズム』だ。優秀なビジネスパーソンに共通する思考アルゴリズムが、見事に解説されている。
著者は、北の達人コーポレーション(東証プライム上場)社長・木下勝寿氏。ベストセラーとなっている本書は、多くの経営者やビジネスパーソンから評判の一冊だ。
そこで、本書からより深い学びを得ようと、職場の「あるある」なお悩みを、木下氏に相談した。「仕事が遅くて困っている」から「部下が動いてくれない」という悩みまで、その場しのぎの対策だけでなく、根本的な問題解決策を教えてもらおう。
連載1回目は、「やる気ゼロのチームに配属されてしまったときの対処法」だ。(構成・川代紗生)

職場 考えるPhoto: Adobe Stock

やる気と業績はイコールではない

──リーダーに抜擢されたものの、担当するチームの部下が全員やる気がない……。

 そんなとき、どうすれば士気を鼓舞できるでしょうか?

 たとえば、以前、私が担当したチームは、前任者の人望が厚かったため、リーダー変更にすごくがっかりしている様子だったんです。会社全体への不満も高まっており、マネージャー層への反発感情がある人も多く、かなり苦戦した覚えがあります。

木下勝寿(以下、木下):まず、「やる気と業績はイコールではない」ということを、理解するのが大事だと思います。

 やる気にあふれている職場の業績が、必ずしもいいわけではありません。

 リーダーおよび管理職の仕事は、「人の管理」ではなく「仕事の管理」。

「仕事の管理」をするために、必要であれば「人の管理」をする。

 この順番を間違えてはいけません。

──あまり聞いたことがない意見です。具体的にどういうことでしょう?

「入社したばかりの新人」が即戦力になれる組織とは?

木下:組織の仕事のやり方として、「ベルトコンベア」をイメージすると、わかりやすいかなと思います。

 ベルトコンベアはもともと、アメリカの自動車メーカー「フォード・モーター」の創業者、ヘンリー・フォードが開発したものでした。

 彼は「自動車の育ての親」と呼ばれたりもしますが、ベルトコンベアを活用したライン生産方式を導入したことで、自動車の大量生産を実現したのです。

 フォード方式が確立される前、自動車は職人によって一台一台、手作業でつくられていました。

 その仕組みをフォードは変えました。

 車を作る工程をすべて分解したのです。

 ベルトコンベアのラインに「タイヤだけ付ける人」「ライトだけ付ける人」のように、部品ごとに人を配置しました。

 この管理方式ならば、新しく入った人でも、ハンドルさえ付けられれば即戦力になります。メンバーそれぞれのスキルが低かったとしても、自動車がつくれるようになったのです。

 これは、一般の職場にも共通する考え方だと思っています。

 この方式であれば、メンバーに求める仕事の範囲は非常に狭く、やる気があろうとなかろうと関係ないですよね。

──そうか、システムがしっかりしてさえいれば、やる気の有無に影響されないんですね。

木下:極端な言い方をすれば、管理職以外は、自分が何をつくっているかわからなくても、成果が出るようになっているんです。

人のやる気やスキルに頼らずに成果が出る仕組み」にする。

 これが、組織のいちばん理想的な在り方だと思いますし、メンバーのやる気がなくても、成果を出せるリーダーの特徴といえます。

「自然とやる気が出るチーム」の共通点

木下:さて、最初の相談内容に戻ると、社員一人ひとりのモチベーションが高いことが前提の仕組みになっていないかどうか、今一度、見直しできるといいかもしれません。

 やる気によって業績が上がったり下がったりする状態なら、まず、そうならない仕組みづくりが必要ですよね。

 全員やる気がなかったとしても、最低限の成果は出る。やる気が出れば、さらに数字が上がる。そんな状態をつくること。

 それに、やる気って、業績が上がると後付けで上がったりするんです。

 みんながやる気を出してくれれば業績が上がるのではなくて、業績が上がるとやる気が出る。そういうものじゃないかと私は思っています。

──言われてみれば、そうですね。会社の勢いが落ちると、やっぱりやる気も下がりますし。

木下:結局、「がんばったらがんばっただけ成果が出る仕組み」があることが大事なんです。これがあれば、無理に一人ひとりに働きかけたりしなくても、自然とチームのやる気は上がります。

 たとえば、優秀な編集者がいたとします。すばらしい本をつくったけれど、営業部が弱すぎて、ちっとも店頭に並ばない。

 これにもどかしさを感じ、営業力の強い会社に転職した。

 すると、がんばったらがんばっただけ、自分の編集した本が、きちんと世に広がっていくようになった。売れ行きも全然違う。こうなると、やっぱりやる気は出るじゃないですか。

──前の会社と今の会社で、編集者自身のスキルはずっと同じでも、組織の仕組みしだいでやる気が変わるんですね。

木下:チームメンバーをやる気にさせたかったら、同じ仕事でもより成果が出やすい環境をつくることが重要です。

 だから、「やる気がないとダメ」と考える必要はないし、配属されたチーム全員にやる気がなくても、落ち込む必要はありません。

原因だと思っていることが、
原因でも何でもないことがある

──これから組織の仕組みづくりをしていきたいと思ったとき、どんなことを意識するのがいいでしょうか?

木下:「目的ベース」で仕事する人と、「作業ベース」で仕事する人、それぞれ分けて業務分担するのがいいと思います。

 会社のゴールや全体像だけを共有し、あとはすべて各自が考えて行動するということを求めがちですが、これは小さな会社の創業メンバーや、家族経営の会社といった社員一人ひとりが「当事者意識」を持てる特殊な環境でなければなかなか難しい。これを、入社したての人にいきなり同じ意識を求めても無理です。

 目的に合わせ、自分で考えて仕事をするのは、すごく高度なことなんです。

「この自動車をつくるのがゴールなんだけど、何をすればいいかは自分で考えて動いてみて」というのは、かなりレベルの高い要求じゃないですか。

──たしかに。

木下:だから、目的がわかっている人はリーダー1人でもいいんです。

 自動車の設計や構造を、全員に覚えさせようとすると、膨大な時間がかかります。

 仕事を分割し、メンバーそれぞれが何をすればいいのかを明確にすること。

──新米リーダーは、とくにどんな考え方を意識しておくといいでしょうか。

木下:「原因解消思考」ではなく「最終目的逆算思考」で考えるクセをつけられるといいと思います。

「原因解消思考」は、何か問題が発生したとき、その問題の原因を考え、それを解消しようとする考え方。

「最終目的逆算思考」は、最終的にどうなりたいのか、ゴールを明確にした上で、そこから逆算して何をするべきか考えるやり方です。

 今回、相談いただいた「メンバーにやる気がないとき、どうしたらいいか」というお悩みは、前者の「原因解消思考」的な発想なんです。

 これを、「最終目的逆算思考」で考えてみると、「業績さえ上がればいい」「メンバーのやる気を出させるのは、業績を上げるための選択肢の一つでしかない」と気づけます。

 今回の場合だと、「やる気がなくても成果が上がる仕組みを作ればいい」ということになります。メンバーのやる気を出すという問題を解決する必要はなかったのです。

 管理職の仕事は多岐にわたるので、とにかく目の前のトラブルを解決することで頭がいっぱいになってしまうこともある。

 しかし、問題の原因だと思っていたことは、実は原因でもなんでもなかった、ということは多々あります。

 冷静に物事を観察し、きちんと「仕事の管理」ができるよう、思考アルゴリズムを整えていけるといいですね。