「ソーシャリズム・コア・バリューズ」は
プロパガンダではなく、現代アートだったのでは?

 だが、筆者はこの標語作品の出現について報じる、大手海外メディアの報道を読んでいて、そのどれにも中国の現代美術に詳しい人物に話を聞いた形跡がないことに気がついた。

 筆者は中国美術の専門家ではないが、取材の傍ら多少の知識を得てきた。それに照らすと、もしこれが15年前の中国だったら、この作品はきっと「悪〓(〓は「てへん+高」、以下同)」と呼ばれたと思う。「悪〓」とは「いたずら」よりももっと手が込んだもので、たとえば当時、ある芸術家が北京のある通りの道路標識に自分の名前をまことしやかに書き込んだ結果、地区内でもその名前が定着し、百度やグーグルの地図にもそれが地名として登録されてしまう……という芸術活動を行ったことがあった。周りはそれが行政の付けた名前だと思い込み、すっかりだまされていたことに多くの人たちが驚いた一方で、事実に気づいた人たちの笑いを誘った出来事だった。

 さらに30年前であれば、これは間違いなく「政治波普」として西洋美術評論家の間で評価されたはずの作品である。「波普」とは「ポップ」を意味する中国語で、欧米のモダンアートに刺激された当時の中国人芸術家たちが、その成長過程で自分たちの脳裏に焼き付けられた毛沢東や文革時代の標語や政治スローガンをモチーフにして制作した作品群を指している。その中にはかなり大雑把だったり、見る人が見れば悪趣味と思えたりする作品もあるが、当時はキッチュだと欧米美術界で大歓迎されて高値で取引され、今では中国のモダンアートの出発点と認められている。

 だが今や、中国的な概念の海外輸出はすぐに「小粉紅」と呼ばれる時代となった。一鵲たちは、一挙にアンチ中国世論の標的に祭り上げられてしまった。