「民主」「自由」「愛国」「平和」……
中国だけでなく、世界中の人々のゴール?

 標語作品は消えてしまったが、憤懣(ふんまん)やるかたない人たちの間では、「いったいあれは何だったのか?」の声が渦巻いている。それを単純に「中国政府による戦狼外交に続く、海外へのイデオロギー輸出だ」とか「小粉紅(若い民族主義者たち)のおバカな行動」と吐き捨てるように言う人がいれば、「その後の人々の行動も予見して作られた作品だ」という人もいた。

 一方、中国国内でも反応はさまざまで、「恥ずかしい」という人がいれば、「国力の発揚だ」「自由に主張を書き込める壁に中国人が書き込んで何が悪い」と喜ぶ人、「写真を見ると黒人や非華人のメンバーもいる。あれは民族を超えた作品だった」と擁護する人たちもいた。

 当の一鵲はBBCの取材に、「あの24文字だけを見れば、あれは中国にとってだけではなく、世界中の人たちのゴールでもある」と答えている。「民主」「自由」「愛国」「平和」……確かにその通りだ。だからこそ、それを「社会主義核心価値観」とくくられたことが、人々に複雑な思いをもたらしたともいえるだろう。だが、くくったのは一鵲と仲間たちではない。中国共産党である。

 一方で、一鵲たちは作品が注目されると同時に押し寄せた「ネットの暴力」にさらされた。SNSのコメント欄には罵詈雑言が押し寄せ、制作に関わったメンバーの履歴や中国の自宅住所などが暴露され、さまざまな形で膨大な数の脅迫が届いたという。制作メンバーの中には、いったん発表した制作過程の様子を削除したり、SNSアカウント自体を抹消したりした人たちもいる。

 一鵲はその後、「すでに受けたBBC以外の取材は受けない」とInstagramで明らかにし、この作品の意図は謎に包まれたままになってしまった。香港などの中華圏メディアでは引き続き、「小粉紅がまた海外で恥ずかしいことをやらかした結果、海外で怒られて責任逃れをしている」といった批判的論調が続いている。