“テスト”は百害あって一利なし~なぜ「学校」はできたのか『教育は遺伝に勝てるか?』
安藤寿康(著)
定価935円
(朝日新聞出版)

 テストの成績や学歴はお金に似ています。ただの紙切れにすぎないお札には、それ自体なんの価値もありません。なんちゃらペイにいたっては、スマホの画面上のただの数字にすぎません。にもかかわらずそれらは、生きるために必要な食べ物や服や住まい、生活を豊かにしてくれるさまざまなモノや経験を手に入れるための手段になります。実質的に大事なのは、お金で手に入れたものをどのような目的で使うかのはずですが、いつのまにか手段と目的が入れかわり、お金をできるだけたくさん手に入れることが目的になりがちです。

 同じようにテストの得点や学歴それ自体は何の価値もなく、大事なのは学校でどんな知識を学び、生きるために役立てるかのはずですが、いつのまにか良い学業成績や高い学歴それ自体が目的になってしまいます。お金はたくさんあればあるほど幸せと考えるのと同じように、テストの点数や学歴は高ければ高いほど良いという発想に陥りがちです。

 このように学校教育の実質的側面と形式的側面の区別はきちんと意識しておきましょう。人によっては学歴こそが実質で、そこで本当に何を学んだかなんて形式的なものと考えるかもしれません。どちらでもよいのですが、この区別は大切です。ただこれを強調しすぎると、ただの学校批判、現実逃避といわれるのがオチなので、ほどほどにしておきましょう。

“テスト”は百害あって一利なし~なぜ「学校」はできたのか

安藤寿康 あんどう・じゅこう
1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学名誉教授。教育学博士。専門は行動遺伝学、教育心理学、進化教育学。日本における双生児法による研究の第一人者。この方法により、遺伝と環境が認知能力やパーソナリティ、学業成績などに及ぼす影響について研究を続けている。『遺伝子の不都合な真実─すべての能力は遺伝である』(ちくま新書)、『日本人の9割が知らない遺伝の真実』『生まれが9割の世界をどう生きるか─遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(いずれもSB新書)、『心はどのように遺伝するか─双生児が語る新しい遺伝観』(講談社ブルーバックス)、『なぜヒトは学ぶのか─教育を生物学的に考える』(講談社現代新書)、『教育の起源を探る─進化と文化の視点から』(ちとせプレス)など多数の著書がある。

AERA dot.より転載