一見ヤケクソなアイデアと見た目が
実は結構喜ばれた「きのこの山」新商品
明治の「きのこの山」は、対立勢力である「たけのこの里」とともに日本の国民的な菓子である。いつの頃からか両派の対立が表立って語られるようになると、明治自身もマッチポンプとなってそれをあおり、“国民的菓子”としての地位をさらに盤石にしてきた。
そして7月下旬、きのこの山の発展型新商品として「チョコぬいじゃった!きのこの山」が発売された。きのこの山はクラッカーとチョコの2部分から成るが「チョコぬいじゃった」の方はチョコがなく、クラッカーのみである。1パックにおける量は、きのこの山の約2倍、約60本が入っているとのことである。つまり商品のふたを開けて中を見てみれば、そこにはあの丸みを帯びた骨のごとき形状のクラッカーがおもむろに60本満載されているというグロテスクを発見するはずである。
これも酷暑対策をうかがわせる商品である。暑さはあまねくチョコを、味だけはおいしいベトベトな物体へと変質させる。触ってベタベタ、食べてネチョネチョのチョコを、この暑いさなかにあえて食べたいと思う人の数は減るので、「どうしたものか」とメーカーは考え、ついに「いっそチョコをなくそう」という、一見ヤケクソとも思われる結論に至った。やはり暑さのせいかと一部はざわついた。
だが、評判は芳しかった。きのこ派の熱烈なプッシュもあったかもしれないが、たけのこ派も「チョコを脱いだ非道なきのこを許すな」といった趣旨の否定的な発言はあまりせず、「チョコぬいじゃった」を菓子として歓迎している様子である。
なお筆者は、かつてはたけのこ派だったが、きのこの山のおいしさに開眼してきのこ派となった。しかしたまに食べるたけのこの里もやはり絶妙においしいので、いつでもどちらの派閥につける構えのコウモリ勢力である。
「チョコ脱いじゃった」の面白さに沸いたきのこ・たけのこ両派……すなわち全国民であったが、しかし購入を楽しみにした人の多くは、クラッカーのみをむさぼり食うことを想定してはいなかったようだ。「○○とディップしよう」と、思い思いの工夫とそこから期待される成果にワクワクしたのである。
明治もSNSアカウントなどを通じて「チョコぬいじゃった」のコラボレシピをアップしていて、シリアルのように牛乳に浮かべた「きのこーンフレーク」、カマンベールチーズにディップする「きのこの山ンベール」、アイスのスーパーカップに好きなだけ載せた結果、完成画像が螺髪(らほつ)のごとくなっている「きのこのアルプス」がある。
たしかに、きのこの山のクラッカーをかんだとき、こちらの歯がその物体のツボを突いたのではないかと思われるくらい勢いよく破砕し(爆砕点穴)、その食感が楽しくもおいしい。だからチョコを脱いでクラッカー単体になってもそれがただのネタで終わらず、通用するという勝算が、メーカーにはあったのかもしれない。
なお筆者が夢想している独自レシピは、たけのこの里のチョコ部分をやや溶かしてそこにきのこクラッカーを数本突き立て、「キメラの森」とか何とかと称して、見る人をおののかせることである。口の中でクラッカーがこれでもかとはじけてくれる、おいしい一品に仕上がる見込みである。