横軸に年齢、縦軸に幸福度を取ってグラフを描いてみると、図のように真ん中が底になる「U字カーブ」を描くことがわかります。10代から20代前半くらいの若いときは幸福度が高いのですが、そこから徐々に下がっていき、40~50代が一番低くなります。この年代は、仕事での責任が増す一方で、子育てや親の介護などでの問題も起こりがちな世代です。また、家のローンや老後の資金といった、お金の不安も尽きません。しかし60代を過ぎると、幸福度は再び上昇していくのです。

 このように、少なくとも心理学に基づく研究では、高齢者は不幸どころか中年時代よりもずっと幸福であることがわかってきました。

 しかも、この傾向は日本だけではなく、世界共通のものです。世界数十カ国のデータから、国や人種、民族の違いを超えて、やはり同様のU字カーブを描くことが明らかにされています。何歳頃が底になるのかは、文化や社会によって微妙に違うようですが、幸福度のU字カーブに違いはありません。

高齢になると感じる、新しい「幸せ」

 なぜ、高齢になると幸福感が増すのでしょうか。しかも、U字カーブを見ると、60~70代で幸福感の上昇がとどまるのではなく、さらに80~90 代に向けて上昇を続けていくようです。

 80~90代といえば、体が思うように動かなくなる人が多く、それまで当たり前にできていたことができなくなる年代です。若い人から見れば、苛立(いらだ)たしいことばかりではないかと想像されますが、それでも幸福度が上がるのは、いったいどういうことなのでしょうか。

 そのヒントになるのが、スウェーデンの社会学者ラルス・トルンスタムが1989年に提唱した「老年的超越」という概念です。それによると、85歳を超えたくらいから価値観がそれまでとは変わり、物質主義的で合理的な考え方から、宇宙的、超越的な世界観へと変化していくというのです。

 具体的な変化としては、物事に楽観的になり、自らの欲望や欲求から離れ、自己中心的ところがなくなって寛容性が高まっていくということが挙げられています。さらに、過去・現在・未来といった時間の区別が消え、自分と宇宙との一体感、人類全体や先祖子孫との一体感を感じるようになるともいいます。ややスピリチュアルな印象を受けるかもしれませんが、古典に出てくる仙人をイメージするといいかもしれません。

 わかりやすく言い換えると、若い頃に感じていたような物質的な幸せとは違って、高齢になると別の種類の幸せが待っているというわけです。

 こうした「老年的超越」が、高齢期の幸福感と深く関係しているのだと考えられます。